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健康経営

建設業の「健康経営」はなぜ難しいのか
——OTが現場で感じた3つの壁

著者: 三宮 孝太(作業療法士・株式会社DIALOG代表)

「健康経営?うちみたいな小さい建設会社には関係ないですよ」——この言葉を、あなたも一度は口にしたか、心の中で思ったことはないでしょうか。現場の職人が毎日体を張って働き、工期を守ることで精いっぱい。健康プログラムなんて、大企業が余裕でやる話だ——そう感じる気持ちは、痛いほどわかります。

しかし、現実のデータはまったく逆のことを示しています。建設業の労働災害発生率は全産業平均の約2倍。腰痛による経済損失は年間3兆円。そして、健康経営優良法人の認定取得率は製造業やサービス業と比較して著しく低い。つまり、最もリスクが高い業種が、最も健康に無関心という「最悪の組み合わせ」が、今の建設業の現状です。

この記事では、作業療法士(OT)として建設現場に入り続けてきた視点から、建設業の健康経営が進まない3つの本質的な壁とその突破口を解説します。「うちには関係ない」が、実は最も高くつく思い込みである理由がわかります。

この記事でわかること

建設業が「健康経営の盲点」になっている——高リスク×低取組率という矛盾の正体

結論から言います。建設業は「最もリスクが高い業種」であると同時に「最も健康経営の取り組みが遅れている業種」の一つです。この矛盾した状況こそが、建設業の健康経営を語る上で最初に押さえるべき事実です。

健康経営優良法人認定制度(経済産業省)の認定企業数は2025年度時点で全国約17,000社を超えました。しかし業種別に見ると、建設業の認定取得率は製造業やサービス業と比べて著しく低い水準にとどまっています。なぜこんなことが起きるのか。

建設業が抱えるリスクを並べると、理由が見えてきます。重量物の取り扱い・不自然な姿勢・機械振動という身体的負荷の高さ。屋外・高所・密閉空間という過酷な作業環境。天候と工期に左右される不規則な労働時間。そして「職人気質」「我慢が美徳」という業界固有の文化。これらが複合することで、建設業の労働者は他業種の従業員よりはるかに高い健康リスクにさらされ続けています。

それでも健康経営が進まないのは、これから解説する「3つの壁」が業界全体を覆っているからです。この構造を理解することが、問題解決の第一歩になります。

DATA — 建設業の労働災害リスク(令和5年)
14,188
建設業の死傷者数
(休業4日以上、令和5年)
約2
全産業平均に対する
死傷年千人率の比率
3兆円
腰痛による国内
経済損失(年間推計)
出典:厚生労働省「労働災害発生状況(令和5年)」/厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」

壁 01|「うちには関係ない」——その認識が、毎月数十万円の損失を生んでいる

あなたの会社でも、こんな会話をしたことはありませんか。「健康経営?うちは小さい会社だから」「現場の職人に健康管理なんて言っても無駄だ」「それより仕事が取れるかどうかが先決」——最初の壁は、そもそも健康経営を「自社の問題」として認識できていないことです。

この反応の背景には、「健康経営=福利厚生の充実=大企業がやること」という誤った等式があります。実際には違います。健康経営とは「従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、戦略的に実践すること」です。むしろ従業員数が少ない中小企業こそ、1人の健康問題が会社全体に与えるインパクトは大きい。**10人しかいない会社で、2人が不調なら、実質20%の戦力が失われています。**

建設業で最も見落とされているのが、「プレゼンティーズム」です。出勤はしているが、身体的・精神的な不調によって生産性が著しく低下している状態のことです。腰が痛い、肩が重い、頭が重い——そうした状態で職人が現場に立っていても、作業スピードは落ち、判断力は鈍り、事故リスクは高まります。しかし経営者の目には「今日も来ている」としか映りません。

「多少しんどくても、現場はなんとかなる。そういうものだ」

この感覚は、長年の現場文化から生まれています。しかしデータで見ると、様相が一変します。東京大学の研究によれば、企業が負担する健康関連コストを1とした場合、欠勤による損失はその2.3倍、そして出勤しながら生産性が落ちているプレゼンティーズムによる損失は実に6.1倍にのぼります。腰痛一つとっても、日本全体で年間3兆円の経済損失をもたらしています。建設業は身体的負荷が突出して高い業種であり、プレゼンティーズムの発生率も他業種と比較して高いとされています。

「うちには関係ない」という認識が最も高くつく——この逆説を、まず経営者自身が受け入れることが、健康経営の本当のスタートラインです。

DATA — 「見えない損失」の構造

企業が負担する健康関連コストを1とした場合の内訳比較(東京大学政策ビジョン研究センター研究より)

医療費・薬剤費
1
1
欠勤・休職
(アブセンティーズム)
2.3
2.3倍
出勤中の生産性低下
(プレゼンティーズム)
6.1
6.1倍
出典:東京大学政策ビジョン研究センター健康経営研究ユニット「健康経営のすすめ」

この数字が示すのは明確です。「医療費を減らすこと」よりも、「出勤しながら生産性が落ちている状態を解消すること」の方が、経営的インパクトははるかに大きい。健康経営は従業員のためだけでなく、経営の根幹に直結する投資です。

つまり、健康経営は「きれいごと」ではなく、コストを下げる経営戦略です。「うちには関係ない」ではなく、「うちこそが当事者だ」という認識の転換が、健康経営の本当のスタートラインです。

では、わかっていても行動に移せない理由は何か。次の壁、「コスト」の問題に踏み込みます。

壁 02|「コストがかかる」——計算してみると、何もしない方がずっと高くつく

2つ目の壁は、健康への投資を「コスト」と見てしまうことです。しかし、比較すべきはそこではありません。「健康投資にかかるコスト」ではなく、「今この瞬間も毎月発生し続けている見えない損失」と比較したとき、答えは逆転します。この視点の転換ができるかどうかで、健康経営への判断が180度変わります。

腰痛による経営損失の試算例
腰痛を抱えた職人1人の作業効率が10%低下しているとします。月給30万円の職人なら、毎月3万円の損失が「見えないコスト」として積み上がっています。5人いれば月15万円、年間180万円。これは健康投資にかかるコストと比較して、どちらが大きいでしょうか?
答えは、何もしないほうがずっと高くつく、です。
さらに1人が腰痛で長期休職した場合、代替要員の確保・教育コスト、工期への影響、労災認定による保険料率上昇を含めると、損失は数百万円規模になります。

投資対効果(ROI)の計算は「払う費用」だけでなく、「避けられた損失+得られるリターン」を含めて行う必要があります。経済産業省の調査では、健康投資と企業業績の間に正の相関関係があることが統計的に確認されています。

特に注目すべきは、健康経営優良法人認定のプロセスで腰痛予防プログラムを導入した建設系企業では、1〜2年以内に労働災害件数の減少・休職日数の短縮・採用応募数の増加という三重の効果が現れたケースが報告されています。認定取得自体は無料であり、取り組みの多くは既存の業務の中で実施できるものです。

さらに、認定マークは融資条件の優遇(一部の地方銀行・信用金庫)、公共工事入札での加点評価(一部自治体)、損害保険料の優遇にも直結します。「コストがかかる」という認識を持つ前に、まず「今すでに発生しているコスト」を可視化することが先です。DIALOGでは初回相談時に「見えない損失の試算」を無料で実施しています。

コストの壁は、計算で越えられます。次は最も根深い壁——現場文化の問題です。

壁 03|「現場文化」——制度を入れても、文化が変わらなければ何も変わらない

3つ目の壁が、最も根深く、最も解決に時間がかかるものです。想像してみてください。「我慢が美徳」という文化が30年かけて形成された現場を。「痛いくらい言えない」「休むと仲間に迷惑がかかる」「弱音を吐けない」——こうした空気の中では、どれほど優れた健康プログラムを導入しても、現場の職人がそれを活用しようとしません。

「正しい知識を提供すれば行動が変わる」——この前提は崩れます。腰痛に悩む職人に「こうすれば改善します」と伝えるだけでは、現場では機能しない。なぜなら行動は「知識」だけで変わるものではなく、「文化・環境・習慣・人間関係」という複雑な要素によって形成されているからです。

作業療法士が現場に入るとき、最初に取り組むのはプログラムの提供ではなく「組織文化の読み取り」です。誰が現場で最も影響力を持っているのか。どんな言葉が職人に響くのか。何が変わることへの抵抗感につながっているのか。ベテランの職長がまず変われば、若手は自然とついてくる——この「文化変容の起点」を見極めることが、OTの現場支援の核心です。

健康経営の本質は、制度の導入ではなく、
組織の「あたりまえ」を少しずつ変えていくことです。

では、具体的に何が「機能する」のか。現場文化の変容において効果的なアプローチは、まず「小さな成功体験」を積み重ねることです。朝礼でのストレッチ3分間から始め、「なんとなく体が楽になった」という実感を積み上げる。その変化を「腰痛が減った」ではなく「工具の扱いが楽になった」「午後の集中力が続くようになった」という職人自身の言葉に変換することが重要です。

逆に機能しないのは、外部から「やらされる」一方的な指導です。外部講師が単発でセミナーを行う、健康診断の実施だけで終わる、ポスターを貼って啓発する——こうした施策は、現場文化の変容にはほぼ無力です。DIALOGが「伴走型」の支援にこだわる理由がここにあります。現場に繰り返し入り込み、職人と同じ目線で対話を重ねながら、ゆっくりと「あたりまえ」を書き換えていく——これが3つ目の壁を乗り越える唯一の道筋です。

3つの壁を理解したところで、「では、壁を越えた先に何があるのか」を見ていきましょう。

3つの壁を越えた先——健康経営が経営課題を解決する

3つの壁を越えたとき、建設業の健康経営は単なる「従業員への配慮」を超えて、経営上の重要課題を次々と解決するエンジンに変わります。

採用難・人材不足の解消

北海道の建設業界では、若手の入職者数が慢性的に不足しています。健康経営優良法人の認定マークは、求人票や会社サイトに掲載するだけで「この会社は従業員を大切にしている」というシグナルを発します。特に20〜30代の求職者はインターネットで徹底的に企業を調べます。健康経営への取り組みを可視化することは、採用競争において大きな差別化要因になります。経済産業省の調査では、認定取得後に採用応募数が増加したと回答した企業が約22%存在します。

高齢化する職人の戦力維持

建設業の就業者の平均年齢は全産業の中でも高く、60歳以上の就業者が占める割合は年々上昇しています。高齢の職人が健康を維持しながら働き続けることができれば、技術の継承と人材の戦力維持が同時に実現します。腰痛予防・転倒防止・体力維持のプログラムは、ベテラン職人が引退を先延ばしにするための現実的な支援になります。

受注力と信頼性の向上

官公庁の公共工事入札において、健康経営への取り組みを評価基準に含める自治体が増えています。また、元請け企業が下請け業者を選定する際に、安全衛生・健康経営の取り組み状況を確認するケースも出てきています。健康経営への投資は、受注の機会そのものを広げる競争力につながります。

融資条件の改善

北海道内の一部の地方銀行や信用金庫では、健康経営優良法人認定企業に対して優遇金利や融資審査での加点評価を設けています。財務指標だけでなく「経営の質」を評価する流れの中で、健康経営への取り組みは金融機関からの信頼を高める要素として機能します。

よくある質問

Q. 従業員が何人以下でも健康経営に取り組めますか?

A. 従業員数に下限はありません。健康経営優良法人認定の中小規模法人部門は、従業員数名規模の小規模事業者でも申請・取得が可能です。むしろ従業員数が少ない会社ほど、1人の健康問題が経営全体に与えるインパクトが大きいため、取り組みの優先度は高いと言えます。

Q. 健康経営に取り組むと具体的にどれくらいコストがかかりますか?

A. 健康経営優良法人の認定申請自体は無料です。取り組みのコストは内容によって異なりますが、朝礼での体操実施・腰痛予防の動画活用・禁煙支援など、ほぼコストゼロで始められる施策も多くあります。外部専門家(作業療法士など)を活用する場合は別途費用が発生しますが、プレゼンティーズムによる損失削減効果と比較すると、多くのケースで投資回収が見込めます。

Q. 建設業に特化した健康経営の支援はありますか?

A. あります。DIALOGの健康経営支援「ぱとす」は、建設業の現場環境・業務特性・労働文化を熟知した作業療法士が支援する、建設業特化型のプログラムです。腰痛予防・転倒防止・高齢職人の体力維持など、建設現場に即した施策を実施します。

Q. まず何から始めればいいですか?

A. 最初のステップは「現状把握」です。定期健診の受診率・腰痛や疾病による休職・欠勤の状況・現在実施している健康施策——この3点を整理するだけで、次に何をすべきかが見えてきます。DIALOGでは初回30分の無料相談で、御社の現状分析と優先取り組み項目の整理をお手伝いします。

まとめ

建設業 健康経営が難しい理由は、制度が複雑だからでも、コストが高いからでもありません。「認識・コスト計算・現場文化」という3つの壁が、変化を阻んでいるのです。しかしこの3つはいずれも、正しい知識と適切な支援があれば乗り越えられます。

この3つの壁を一緒に乗り越えるパートナーとして、DIALOGは北海道の中小建設業に伴走します。

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