年次有給休暇を計画的に取らせる制度を、最も多く導入しているのは中小企業です。厚生労働省の令和7年就労条件総合調査によると、30〜99人規模の企業の42.1%が計画的付与制度を持っています。1,000人以上の企業の40.5%を上回る数字です。
ところが同じ調査で、30〜99人規模の取得率は64.9%。全ての企業規模の中で最も低くなっています。制度がないから取れていないのではありません。制度は入れたのに、取得の実態が追いついていないという状態です。
株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、作業療法士として23年間、急性期医療の現場で人が働き続けられる条件を見てきた知見をもとに、中小企業の健康経営・人材定着支援を提供しています。blog-103(睡眠の質)では休息の量と質の違いを扱いました。本稿は、その休息を制度として確保する側の話です。
この記事の要点
- 30〜99人規模は、計画的付与制度の導入率が最も高く、取得率は最も低い
- 付与日数自体も1,000人以上の企業より1.1日少なく、差は二重になっている
- 「前年度の有給休暇の平均取得日数」は、求職者から求めがあれば提供義務のある情報にあたる
背景の前提: 取得率とは、取得日数の合計を付与日数の合計で割った割合です(出典は記事末尾)。
30〜99人規模の企業に起きているねじれ
出典:厚生労働省「令和7年就労条件総合調査 結果の概況」(令和6年1年間の状況)
差は「取得率」だけではなく「付与日数」にも出ている
企業規模別に並べると、もう一つの差が見えます。
| 企業規模 | 付与日数 | 取得日数 | 取得率 | 計画的付与制度あり |
|---|---|---|---|---|
| 1,000人以上 | 18.5日 | 12.8日 | 69.0% | 40.5% |
| 300〜999人 | 18.4日 | 12.3日 | 66.8% | 38.2% |
| 100〜299人 | 17.8日 | 11.7日 | 65.5% | 37.8% |
| 30〜99人 | 17.4日 | 11.3日 | 64.9% | 42.1% |
30〜99人規模は、付与日数が1,000人以上より1.1日少なく、取得率も4.1ポイント低くなっています。分母が小さいうえに割合も低いため、実際に休んだ日数の差は1.5日に広がります。
この数字は、求職者に開示を求められる情報にあたる
若者雇用促進法(青少年の雇用の促進等に関する法律)は、新卒者向け求人を行う事業主に対し、青少年雇用情報の提供を義務づけています。
提供項目は3つの類型に分かれており、そのうち「企業における雇用管理に関する状況」の項目に「前年度の有給休暇の平均取得日数」が含まれます。応募者等から求めがあった場合、3類型それぞれについて1つ以上の情報を提供することが事業主の義務です。
つまり取得日数は、社内で管理している数字ではなく採用の場に出ていく数字です。求人票に「有給休暇取得推進中」と書くことと、平均取得日数を数字で答えられることは、別の話になります。
取得率を採用と定着に効かせる3つの実務
| 実務 | 内容 | 効く場面 |
|---|---|---|
| 自社の取得率を出す | 取得日数の合計÷付与日数の合計×100。繰越日数は除く | 規模別の公表値と比べ、自社の位置を把握する |
| 数字で答えられるようにする | 前年度の平均取得日数を、求人と面接で提示できる形にしておく | 提供義務への対応と、抽象的な訴求からの脱却 |
| 取り方を設計する | 計画的付与の日数配分を、繁忙期と体調の波に合わせて置き直す | 日数を消化するだけで終わらせない |
前提として、年5日の取得義務は2019年4月施行の労働基準法第39条第7項によるものです。年10日以上が付与される労働者(管理監督者を含む)が対象で、違反には30万円以下の罰金が定められています。
ここまでの整理
制度の導入と取得の実態は、別々に動きます。まず自社の取得率という一つの数字を出すことが、採用への対応と労務リスクへの対応を同時に進める起点になります。
「休んだ日数」と「回復した実感」は同じではない
ここからは私の見立てです。急性期医療の現場で患者さんを見てきた経験から、休息の長さと回復の実感が一致しないことは何度も観察してきました。まとまった時間を確保しても、疲れが抜けない場合があります。
厚生労働省の資料も、年5日の取得は「あくまで最低限の基準」であり、年次有給休暇の取得は心身の疲労の回復や生産性の向上につながると記しています。計画的付与の日数を「5〜6日」で設定している企業は、制度を持つ企業の71.6%です。この5〜6日をどこに置くかは、各社が決められる部分です。離職の入口を年次や職種で分解する視点はblog-87(離職率)で扱いましたが、休みの取り方にも同じ分解の余地があります。
もし1つだけ持ち帰るなら
今年度の付与日数の合計と取得日数の合計を出し、割り算をしてみてください。30〜99人規模の公表値は64.9%です。自社の数字が上か下かが分かるだけで、次の一手を選ぶ材料になります。
よくある質問
Q. 年次有給休暇の取得率は、どう計算しますか?
A. 取得日数の合計を付与日数の合計で割り、100を掛けます。厚生労働省の就労条件総合調査も、この定義で取得率を算出しています。付与日数から繰越日数は除きます。
Q. 年5日の取得義務とは何ですか?
A. 2019年4月施行の労働基準法第39条第7項により、年10日以上が付与される労働者(管理監督者を含む)に対し、使用者は基準日から1年以内に5日を取得させる義務を負います。違反には同法第120条で30万円以下の罰金が定められています。
Q. 計画的付与制度を入れれば、取得率は上がりますか?
A. 制度の導入率と取得率は連動しません。令和7年就労条件総合調査では、30〜99人規模の計画的付与制度の導入率が42.1%と全規模で最も高い一方、取得率は64.9%と最も低くなっています。制度の有無より、運用の設計が結果を分けます。
Q. 有給休暇の取得実績を、求職者に開示する必要はありますか?
A. 若者雇用促進法に基づく青少年雇用情報の提供項目に「前年度の有給休暇の平均取得日数」が含まれます。応募者等から求めがあった場合、3類型それぞれについて1つ以上の情報を提供することが事業主の義務です。
Q. 小規模な会社でも、取得率は改善できますか?
A. できます。まず自社の取得率を計算し、企業規模別の公表値と比べるところから始められます。追加の費用はかかりません。
最後に — 人材課題を抱える中小企業の経営者様へ
人材課題を抱える中小企業の経営者様へ。「制度は入れている」という認識を一度脇に置き、付与日数と取得日数から自社の取得率を出すことが最初の一歩になります。DIALOGは急性期医療23年の知見をもとに、貴社の人材定着にこの視点を落とし込むご提案をします。