御社の求人票の「受動喫煙対策」の欄には、いま何と書かれているでしょうか。即答できる経営者は、あまりいないかもしれません。健康診断や安全書類に比べると、この一行は意識されにくい場所にあります。
ですが、この一行が採用の間口を決めています。書き方によっては、18歳と19歳が応募できない求人になります。
受動喫煙対策は、健康だけの話ではありません。求人票の書き方と、募集できる年齢の下限を、法令が直接決めています。
株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、作業療法士として23年間、急性期医療の現場で「人が働き続けられる条件」を見てきました。その知見をもとに、中小企業の健康経営・人材定着支援を提供しています。本稿では受動喫煙対策を、健康講話ではなく、採用と定着の実務として整理します。
この記事の要点
- 職場で受動喫煙がある労働者は20.6%。年齢別では20歳未満が24.3%と、平均を上回る(厚生労働省 令和4年 労働安全衛生調査)
- 2020年4月から、求人の申込み時に就業場所の受動喫煙対策を明示することが義務。喫煙可能区域で就業する求人は、年齢制限の下限を20歳以上とする必要がある
- 受動喫煙対策は、健康経営優良法人2026(中小規模法人部門)の必須項目でもある
制度の前提: 健康増進法は施設の管理権原者に措置義務を課し、労働安全衛生法第68条の2は事業者に努力義務を課しています(出典は記事末尾)。
若手ほど、煙にさらされている
先に実態を確認します。厚生労働省の令和4年「労働安全衛生調査」を年齢別に並べると、傾向がはっきりします。
職場の受動喫煙の状況(令和4年)
出典:厚生労働省「令和4年 労働安全衛生調査(実態調査)」第16表
入社したばかりの層が、いちばん煙にさらされています。60歳以上の13.6%と比べると、20歳未満はおよそ1.8倍です。そして煙にさらされている人の4割超が、不快さや体調の悪さを感じています。
法律は、20歳未満の人を喫煙できる場所に立ち入らせることを禁じています。それでも、いちばん若い層が平均より高い割合で煙にさらされている。分煙が「部屋を分けること」で止まり、人の動きまで届いていない可能性を示しています。
これは定着の話につながります。若手が辞める理由は、給与や仕事内容だけではありません。毎日の居心地が、静かに積み上がっていきます。急性期医療の現場で患者さんを診てきた限りでも、環境への小さな我慢は、本人が言葉にしないまま蓄積していくように感じています。
「分煙しているから大丈夫」が、18歳を締め出す
次に、採用への直接の影響です。2020年4月1日、職業安定法施行規則が改正されました。労働者の募集や求人の申込みでは、就業の場所の受動喫煙対策の明示が義務になっています。
ハローワークの求人票では、自社の状態によって記載欄が変わります。
| 自社の状態 | 求人票の「対策」欄 | 特記事項の記載例 |
|---|---|---|
| 屋内を全面禁煙にしている | 屋内禁煙 | — |
| 喫煙専用室を設けている | 喫煙室設置 | 「喫煙専用室設置」 |
| 加熱式たばこ専用の喫煙室を設けている | 喫煙室設置 | 「加熱式たばこ専用喫煙室設置」 |
| 屋外でのみ喫煙可(屋外で就業) | その他 | 「屋外喫煙可(屋外で就業)」 |
見落とされやすいのは、その先です。喫煙可能区域で就業する求人は、年齢制限の下限を20歳以上とする必要があります。健康増進法が、20歳未満の立入りを禁じているためです。
高校新卒の応募者は18歳です。屋内に喫煙できる場所を残し、そこでの業務がある求人を出すと、18歳と19歳は応募できなくなります。若手を採りたいと言いながら、入口を自分で狭めていることになります。
逆に言えば、屋内を全面禁煙にするだけで、この制限は消えます。求人票の一行が変わり、応募できる年齢が2つ広がります。求人票の見直しについてはblog-65でも書き直せる箇所を整理しました。
ここまでの整理
受動喫煙対策は、健康の話であると同時に、募集できる年齢を決める採用要件です。喫煙可能区域での業務がある求人は、下限が20歳以上になります。
「うちは屋内じゃない」という思い込みと、今週の確認
現場を持つ会社ほど、「事務所は禁煙にした。現場は外だから対象外だ」と考えやすくなります。ここで確認したいのが、屋内の定義です。
厚生労働省のガイドラインは、屋内をこう定めています。屋根がある建物であること。かつ、側壁がおおむね半分以上覆われていること。その内部が屋内で、当てはまらないものが屋外です。
この定義に照らすと、現場のプレハブ詰所は屋内に当たります。仮設事務所も、休憩用のコンテナハウスも、条件を満たせば同じです。人が集まり、いちばん長く留まる場所が、対象から外れていないということです。
業務で使う車両にも、喫煙者への配慮義務が及びます。現場への往復で使う社用車が、若手にとっての煙の場所になっていないでしょうか。
もう一つ、20歳未満の労働者を喫煙専用室に立ち入らせて業務をさせることはできません。ガイドラインは、ここに清掃作業も含まれると明記しています。「新人だから灰皿の片づけを」という当番表は、法令に触れます。
以上を、確認する場所として並べ直します。
| 確認する場所 | 見るポイント | 根拠 |
|---|---|---|
| 求人票 | 受動喫煙対策の欄の記載と、年齢制限の下限 | 職業安定法施行規則(2020年4月〜) |
| 詰所・仮設事務所 | 屋根と側壁の条件から「屋内」に当たるか | 職場における受動喫煙防止のためのガイドライン |
| 喫煙室の清掃当番 | 20歳未満が割り当てられていないか | 健康増進法(20歳未満の立入禁止) |
| 社用車 | 同乗者への配慮が周知されているか | 同ガイドライン |
| 衛生委員会 | 受動喫煙対策を調査審議事項にしているか | 同ガイドライン |
喫煙専用室を設ける場合には、技術的基準があります。出入口で室外から室内に流れ込む空気が毎秒0.2メートル以上あること。壁や天井で区画されていること。煙が屋外に排気されていること。そして標識を掲げることです。基準を満たさない「喫煙コーナー」は、分煙として認められません。
この確認は、認定の実務にもそのまま乗ります。健康経営優良法人2026(中小規模法人部門)の認定要件では、「受動喫煙対策に関する取り組み」が必須項目です。申請時期の逆算はblog-111、委員会の運営はblog-29で整理しています。
もし1つだけ持ち帰るなら
今週、自社の求人票の「受動喫煙対策」の欄を開いてみてください。そこに書かれている一行が、18歳の応募者を迎えられるかどうかを決めています。
よくある質問
Q. 求人票に受動喫煙対策を書く必要はありますか?
A. あります。職業安定法施行規則が改正され、2020年4月1日から明示が義務になりました。明示するのは「就業の場所における受動喫煙を防止するための措置に関する事項」です。ハローワークの求人票では、2020年1月6日以降の申込みから明示する運用です。
Q. 喫煙室があると、若い人を募集できなくなるのですか?
A. 喫煙可能区域で就業する求人は、年齢制限の下限を20歳以上とする必要があります。健康増進法が喫煙可能区域への20歳未満の立入りを禁じているためです。喫煙可能区域での業務がない求人であれば、この制限は生じません。求人票の特記事項欄に「喫煙可能区域での業務なし」と記載する運用が示されています。
Q. 現場のプレハブ詰所は「屋内」に当たりますか?
A. 条件を満たせば屋内に当たります。ガイドラインの定義では、屋根がある建物で、かつ側壁がおおむね半分以上覆われているものの内部が「屋内」です。これに該当しないものが屋外になります。詰所や仮設事務所も、この定義に照らして判断します。
Q. 新人に喫煙室の掃除を頼んでも問題ありませんか?
A. その新人が20歳未満であれば認められません。ガイドラインは、20歳未満の労働者を喫煙専用室等に立ち入らせて業務を行わせないよう求めています。清掃作業もこれに含まれると明記されています。
Q. 受動喫煙対策は健康経営優良法人の認定に関係しますか?
A. 関係します。健康経営優良法人2026(中小規模法人部門)の認定要件を見ると、「喫煙対策」という項目があります。その中の「受動喫煙対策に関する取り組み」が必須項目です。回答しない場合は認定に届きません。
最後に — 人材課題を抱える中小企業の経営者様へ
人材課題を抱える中小企業の経営者様へ。受動喫煙対策は、喫煙する人を責める取り組みではありません。誰がどこを通り、どこで休み、どの当番に入るのかを設計し直す取り組みです。DIALOGは急性期医療23年の知見をもとに、貴社の採用と定着づくりに、この視点を落とし込むご提案をします。