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健康経営

健康経営の投資対効果(ROI)を数字で示す
——経営者を動かすデータの作り方

著者: 三宮 孝太(作業療法士・株式会社DIALOG代表)

「健康経営にお金をかけて、本当に得するのか?」——北海道の中小建設業の経営者と話す中で、この問いを繰り返し耳にします。従業員の健康を守ることが「正しい」という感覚は持ちながらも、限られた経営資源をどこに投じるかという判断において、根拠のない「良いことをしている」感覚だけでは動けない、というのが多くの経営者の正直なところではないでしょうか。

健康経営 ROI(投資対効果)を明確に示すことができれば、この問いへの答えが変わります。健康経営 投資対効果は「測れない」と思われがちですが、適切な指標と計算方法を使えば、中小企業規模でも十分に数値化できます。この記事では、建設業の文脈に合わせた健康経営 効果測定の具体的な方法と、経営判断を後押しするデータの作り方を解説します。

この記事でわかること

健康経営のROIを構成する4つの効果カテゴリ

健康経営の効果を数値化するためには、まず「何を測るか」を整理する必要があります。健康経営 ROIは大きく4つのカテゴリで構成されています。それぞれのカテゴリには計測可能な指標があり、合計することで健康経営全体のROIが算出できます。

カテゴリ1:直接的コスト削減(医療費・労災保険料)

最もわかりやすいROI要因は、医療費と労災保険料の削減です。従業員の健康状態が改善することで、疾病による医療費(健康保険支出)が減少します。また、労働災害件数が減少すれば、労災保険のメリット制(実績に基づく保険料率の増減制度)を通じて保険料の引き下げが期待できます。建設業は労災リスクが高く保険料率も高い業種であるため、この効果は他業種と比較して大きくなります。

カテゴリ2:損失防止(プレゼンティーズム・欠勤・休職)

健康経営のROIの中で最も金額が大きいのが、このカテゴリです。「出勤しているが体調不良で本来の能力を発揮できていない状態(プレゼンティーズム)」と「欠勤・休職による生産性の喪失」を合わせた損失は、多くの研究で医療費を大きく上回ることが示されています。

カテゴリ3:間接的利益(採用コスト削減・定着率向上・受注力)

健康経営に取り組むことで従業員定着率が向上すれば、採用・育成コストが削減されます。建設業では職人1人を採用・一人前に育成するコストは数百万円規模に達することがあります。また、健康経営優良法人の認定マークが採用応募数の増加・受注での差別化につながることも、計測可能な間接的利益です。

カテゴリ4:無形価値(企業イメージ・認定マーク・金融評価)

企業ブランドの向上・金融機関からの信頼性・取引先・発注者からの評価は、直接的な数値化が難しいものの確実に存在する価値です。特に北海道内の地方銀行・信用金庫の中には健康経営優良法人認定企業への優遇金利制度を設けているところもあり、この価値も計測可能な範囲があります。

最も大きな損失は「出勤しながら働けていない状態」

健康経営 効果測定において最重要の指標がプレゼンティーズムです。東京大学政策ビジョン研究センターの調査によれば、企業の健康に関連した損失のうち、医療費が占める割合はわずか17%にすぎず、プレゼンティーズムによる損失が全体の約77%(医療費の6.1倍)を占めることが示されています。

DATA — 健康に関連した損失の内訳(東大政策ビジョン研究センター調査)
プレゼンティーズム
(出勤するも生産性低下)
77%
77%
アブセンティーズム
(欠勤・休職による損失)
6%
6%
医療費
(治療・検査費用)
17%
17%
出典:東京大学政策ビジョン研究センター「健康経営の推進と健康投資のROIに関する研究」

この数字が示すのは、「医療費を下げることだけを目的にした健康経営」では、損失全体の17%にしか対処できないということです。プレゼンティーズムに焦点を当てた取り組み——腰痛対策・睡眠改善・ストレス低減——が健康経営ROIの最大化につながります。

プレゼンティーズムの測定方法としては、WHO-HPQ(世界保健機関の職場パフォーマンス測定票)・東大1項目版(「過去4週間、健康問題で仕事の能率が何%低下しましたか?」という1問のみ)など、短時間で実施できる調査ツールがあります。建設業の現場では、年1〜2回のアンケートとして実施することが現実的です。

建設業に特化したROI計算シート——数字の作り方

健康経営 ROIを具体的に計算するための試算モデルを示します。自社の数字に置き換えて試算することで、健康経営投資の効果の規模感を把握できます。

モデル試算:従業員10名・平均月給30万円の建設会社の腰痛プレゼンティーズム損失

建設業において腰痛は最も頻繁に報告される健康問題の一つです。以下はシンプルな試算モデルです。

腰痛対策(OTによる作業改善指導・体操導入など)への年間投資が50〜100万円であれば、損失の半分でも削減できれば十分なROIが出ます。これは「健康経営への投資は合理的か?」という問いへの、数字による答えの一つです。

次に、労働災害1件のトータルコストを試算します。建設業では「直接費用」として治療費・休業補償・労災保険の支払い増加分が発生しますが、ハインリッヒの法則の応用として「間接費用は直接費用の4倍以上」という推計があります。間接費用には、代替人員の手配・工期遅延・管理者の対応工数・行政対応・社会的信頼の低下などが含まれます。重篤な労働災害1件では、直接費用100万円に対し間接費用400万円、合計500万円以上の損失が生じる計算です。年間の予防投資と比較すると、その費用対効果は明白です。

コスト項目 内容 規模感
医療費・治療費 労災保険の治療給付 数十万〜数百万円
休業補償 労働不能期間の給付(賃金の60〜80%) 長期休業の場合数百万円
代替人員コスト 派遣・外注・残業代 月20〜50万円程度
行政対応・調査 労基署対応・書類作成・弁護士費用 数十万円
社会的信頼 取引先・発注者への影響(定量化困難) 計測困難だが甚大

健康経営優良法人認定企業の実績データ

健康経営 ROIの参考として、経済産業省が公開している認定企業の実績データを示します。これらのデータは、健康経営への投資が実際に効果を生んでいることを示す根拠として活用できます。

DATA — 健康経営優良法人認定取得後に変化を実感した企業の割合
従業員の健康意識
が向上した
68.5%
68.5%
採用応募数が
増加した
22.4%
22.4%
金融機関・取引先
からの評価が向上
14.3%
14.3%
出典:経済産業省「健康経営度調査フィードバックシート」(中小規模法人部門)

採用応募数の増加を「ROI」として換算する方法も重要です。建設業の採用コスト(求人広告費・採用担当者の工数・内定辞退への対応)は、1人あたり50〜100万円程度になることが多いとされています。健康経営への取り組みが年間1名の採用成功につながれば、それだけで年間50〜100万円の採用コスト削減効果です。

金融面については、北海道内の複数の金融機関が健康経営優良法人認定企業向けの優遇金利制度を設けています。仮に1,000万円の借入に対して金利が0.1%優遇されれば、年間10,000円の金利差が生まれます。金額は小さく見えますが、信用力の向上という無形価値と合わせて評価する必要があります。

「数字で語れない」効果をどう経営判断に組み込むか

健康経営の効果の中には、数値化が難しいがきわめて重要なものがあります。これらを「測れないから無視する」のではなく、定性的な評価として経営判断に組み込む方法を考えます。

技術継承リスクの価値換算

ベテラン職人が健康を維持して長く働き続けることは、若手への技術継承を可能にします。熟練職人の技術・知識・安全の勘を若手に伝えるのに必要な時間は3〜5年以上といわれます。健康経営によってベテランの現役期間が2〜3年延びれば、育成コストの節約と技術継承の促進という2重の価値が生まれます。これを「ベテラン1名の技術価値×延長可能な年数×若手への移転効率」として試算することで、定性的な価値を半定量化することができます。

企業文化・従業員エンゲージメントの価値

「会社が自分の健康を気にかけてくれている」という従業員の実感は、エンゲージメント(仕事への意欲・会社への帰属意識)を高めます。エンゲージメントの高い従業員は、低い従業員と比較して生産性が平均20〜40%高いという研究があります(Gallup社など)。建設業では、エンゲージメントの高い職人は技術習得が早く・ヒヤリハットを積極的に報告し・後輩指導に意欲的という傾向があります。これらは数値化しにくいですが、現場の管理者なら体感として理解できる差です。

将来の採用競争力

現在の採用市場は売り手市場(求職者有利)が続いており、建設業の人手不足は構造的に深刻化しています。健康経営への取り組みは「従業員を大切にする会社」というブランドを時間をかけて形成します。このブランドの価値は、採用競争が激化するほど大きくなります。短期的なROIには現れにくいですが、5〜10年後の採用競争力として確実に機能する長期投資です。

健康経営ROIを継続的に測定・改善するPDCAの設計

健康経営 効果測定は一度やれば終わりではなく、継続的なPDCAサイクルの中で改善していくものです。以下に、中小建設業が現実的に運用できる測定PDCAの設計例を示します。

指標の設定(KPI例)

測定するKPIは、自社の主要課題に対応したものを2〜5項目程度選びます。多すぎると管理が煩雑になり継続が困難になります。

測定の頻度と方法

測定の頻度は、指標によって異なります。労働災害件数・ヒヤリハット件数は月次集計が現実的です。健診受診率・プレゼンティーズム・満足度は年1〜2回のアンケートで測定します。これらの測定結果を年度末にまとめ、前年比での変化を確認することで、健康経営の効果を継続的に追うことができます。

数値化支援の活用

「測定の方法がわからない」「アンケートの設計ができない」という場合は、外部専門家の活用が有効です。DIALOGでは、建設業の実態に合わせたKPI設定・アンケート設計・測定結果の分析・レポート作成を支援しています。自社の数字を正確に把握し、「投資に見合う効果が出ているか」を確認するための定量的な根拠作りをサポートします。

よくある質問

Q. ROI計算に必要なデータはどうやって集めますか?

A. 中小建設業でも収集できるデータとして、まず「すでに記録しているデータ」の活用から始めることをお勧めします。定期健診の受診率・労働災害発生件数・欠勤日数・離職者数は、ほとんどの会社で何らかの形で記録があるはずです。プレゼンティーズムは年1回の簡単なアンケート(東大1項目版は1問のみ)で測定できます。採用コストは求人広告費・採用担当者の工数から計算できます。最初から完璧なデータ収集を目指す必要はなく、測定できるものから始めて徐々に精度を上げていくアプローチが現実的です。

Q. 健康経営の効果が出るまで何年かかりますか?

A. 効果が現れるタイミングは指標によって異なります。ヒヤリハット件数の増加(報告文化の醸成)・従業員の健康意識の変化は比較的早期(6〜12カ月)に確認できることが多いです。労働災害件数の減少・欠勤日数の減少は1〜2年程度で傾向が見えてきます。採用応募数の変化は健康経営優良法人の認定取得後(最短1年後)から徐々に現れます。医療費・保険料の変化は2〜3年程度の継続が必要な場合が多いです。「すぐに効果が出ない」ことへの焦りが健康経営を途中でやめてしまう主な原因です。短期的に確認できる指標(健診受診率・満足度)から手応えを感じながら継続することが重要です。

Q. 経営者に健康経営を説明する際のポイントは?

A. 中小建設業の経営者への説明で最も効果的なのは、「損失の見える化」から入るアプローチです。「健康経営でこんな良いことがある」という効果の話より、「現在これだけの損失が出ている可能性がある」という損失の話の方が、経営者の意思決定に直結しやすい傾向があります。自社の従業員数・平均給与・腰痛経験者数などの実数を使って「今の損失額」を試算し、そこに対する健康経営投資の費用対効果を示す流れが有効です。また、同業他社(競合)が健康経営優良法人を取得しているかどうかを調べ、「取得しないことのリスク(採用での不利・受注での劣後)」として伝えることも動機づけになります。

Q. 小規模企業(従業員5名以下)でもROI計算はできますか?

A. できます。従業員が少ないほど、1人の健康状態が会社全体の業績に与えるインパクトは大きくなります。例えば従業員5名の会社で熟練職人1名が3カ月休業すれば、売上の20%が失われる計算です。小規模企業の場合、厳密な統計的分析よりも「1人が休んだ場合のインパクト試算」という具体的なシナリオ分析が有効です。「もし○○さんが腰痛で3カ月休んだら、工期はどうなるか?代替人員の費用はいくらか?」という問いを具体化することで、健康投資の必要性が経営者に伝わりやすくなります。

まとめ——健康経営ROIは「測れる」し「測るべき」

健康経営 投資対効果は「なんとなく良いことをしている」という感覚から、「数字で根拠のある経営判断」へと転換するための鍵です。プレゼンティーズム損失の試算・労働災害コストの計算・採用コスト削減効果の測定——これらを組み合わせることで、健康経営 ROIの全体像が見えてきます。重要なのは「完璧な数字を出す」ことではなく、「現状を把握し、投資の根拠を持つ」ことです。

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