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採用・定着・若手離職

若手が3年で辞める建設会社と、
辞めない会社の決定的な違い

著者: 三宮 孝太(作業療法士・株式会社DIALOG代表)

「最近、辞めたいって言われるんですよ」——中小建設業の経営者から、こうした声を聞きます。先月入った若手が3日でいなくなった、半年もたずに連絡が取れなくなった、辞表を出された朝の現場の空気が忘れられない。社長業をしていれば、誰もが一度は通る景色です。

そして本当に辛いのは、「あのとき気づけたかもしれない」という後悔のほうではないでしょうか。腰が痛いと言ってきた朝、いつもより口数が少なかった休憩時間、急に有給を取るようになった先週。あれが辞意のサインだったのかもしれない。私は作業療法士として23年、医療・介護の現場で患者さんや利用者さんの身体と生活を診てきました。その経験から確信を持って言えるのは、人が役割や場所を離れる前には、必ず身体や言動に小さなサインが出ているということです。建設業の若手職人もまた、辞表を出すずっと前から、現場で静かにサインを発しています。

この記事の答え(30秒で読める結論)

  1. 若手の3割超が3年で辞めるのは業界の現実。ただし、同じ地域・同じ規模でも会社による差は2倍以上ひらきます。
  2. 辞める理由は、社長と若手で見えているものが違います。社長は「きつさ・根性」と思い、若手は「給料の不安・休めない・将来不安」と感じている。ここを誤解すると、いくら手を打っても空振りします。
  3. 明日から始められる定着策は、月1回10分の「最近どう?」。退職届が出るずっと前から、若手は身体・言動・行動の順でサインを出しています。

以下、なぜそう言えるのかを、厚生労働省・国土交通省のデータと、作業療法士としての現場視点で解き明かしていきます。

数字で見る現実——3割超が3年で去っていく業界

結論から言うと、新卒で建設業に入った若手の3人に1人が、3年以内に辞めています。「最近の若いのは続かない」という肌感覚は、残念ながらデータでも裏づけられます。ただし、同じ業界でもまったく辞めない会社もある。差が生まれる理由を、まず数字で確認していきます。

建設業の新卒3年以内離職率(2021年3月卒)

43.2%
建設業 高卒
41.5%
建設業 短大等卒
30.7%
建設業 大卒
35.6%
建設業 全体

出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」

10人採った高卒の若手のうち、4人が3年でいなくなる。これが業界全体の平均値です。さらに重要なのは、業界平均よりも明確に低い会社が一定数存在することです。同じ建設業、同じ地域、同じ規模でも、定着率には2倍以上の開きが出ます。差は何が生んでいるのでしょうか。

本記事の核心——社長と若手で「辞める理由」がまるで違う

結論から言います。社長が思っている「辞めた理由」と、若手が抱えていた「辞めた理由」は、別のものを見ていることがほとんどです。これがズレたまま手を打っても、空振りし続けます。国土交通省・厚生労働省の調査は、このズレを繰り返し裏づけています。

辞めた理由——企業側の認識と若手側の認識

企業側「作業が身体的にきつい」
約51.5%
企業側「職業意識が低い」
約36.5%
若手側「雇用が不安定(日給制・天候依存)」
最多上位
若手側「休暇が取れない・労働時間が長い」
最多上位

出典:国土交通省「建設産業の現状と課題」関連資料、厚生労働省「建設労働をめぐる情勢について」

この食い違いを、いきなり全部理解する必要はありません。3つのレベルに分けて、ゆっくり言い直します。

社長と若手の「見えているもの」の違い

① ひとことで言うと
社長は「身体のきつさ・最近の若者の意識」が辞める理由だと考えがちです。一方、若手は「給料が不安定」「休めない」「この会社で将来が描けない」と感じて辞めています。同じ会社の同じ事象を、まったく違う角度から見ているのです。

② もっと身近に言い直すと
若手が「きついです」と言って辞めたとき、社長の頭には「根性がない」が浮かぶかもしれません。けれど、その若手が友人に語る本音は「天気で給料が上下するのが怖い」「土日も呼び出される現場が嫌だ」「家を建てたい時期に住宅ローンが組めなさそう」だったりします。どちらも嘘ではありません。ただ、見ている時間軸が違うだけです。

③ たとえばこんな話です(30秒)
ある社長は「20代の社員は身体がついていかなくて辞めた」と思っていました。けれど辞めた本人が友人に語っていたのは、「先輩は元気だけど、自分が40代になっても同じ働き方は無理だと思った。家を建てたいけど、日給制ではローン審査が通らなかった」というものでした。社長が見ているのは「今日の現場」、若手が見ているのは「10年後の自分」。ここがすれ違うのです。

このズレを放置したまま、給料を1万円上げたり、新しい工具を買い揃えたりしても、若手の心は動きません。先に必要なのは、若手側の見ている景色を、こちらが正確に知ることです。

ここまでのまとめ(30秒チェック)

ここから先は、辞める前のサインと、辞めない会社が共通してやっていることを見ていきます。

辞める前に若手が出している3つのサイン

結論から言うと、退職届はある日突然出てくるのではなく、その何週間も前から「身体 → 言動 → 行動」の順でサインが出ています。順番に見ていきましょう。23年の臨床現場で患者さんや利用者さんを診てきた経験から言えるのは、人が場や役割を離れる前には必ずこの3段階のサインが出るということです。建設業の若手にも、ほぼ同じパターンを当てはめることができます。

サイン①:身体的訴えが増える(最も早期)

「腰が痛い」「疲れが取れない」「眠れない」といった身体の訴えが増えます。建設業の現場では身体的負荷が高いため、痛みや疲労は「ある程度当たり前」とされがちです。しかし、若手が痛みを口に出し始めた時点で、実際にはその数倍の不快感を抱えているケースが少なくありません。痛みは、仕事を続けられるかという不安と、ほとんど常にセットで現れます。

サイン②:コミュニケーションが薄くなる

休憩時間に先輩との雑談が減る、朝礼で目を合わせなくなる、現場での会話が業務連絡だけになる。これは「組織への所属感が剥がれ始めている」段階です。すでに会社を「自分のいる場所」とは見ていない可能性があります。年齢の近い先輩がいない現場では、このサインが特に出やすい傾向があります。

サイン③:行動の変化(最終段階)

急に有給を取り始める、終業後の付き合いに来なくなる、私服で現場に立ち寄らない。この段階では、転職活動を具体的に始めている可能性が高いと考えられます。ここまで来てから慰留しても、決定を覆すのは困難です。

重要なのは、サイン①〜②の段階で気づける仕組みを持っているか、です。サイン③が出てから動いても、たいてい間に合いません。

辞めない建設会社が共通して持っている3つの構造

結論から言うと、辞めない会社がやっているのは「①月1回10分の声かけ」「②給料の見える化」「③痛みを軽視しない姿勢」の3つだけです。立派な制度や大きな投資ではありません。建設業の人材定着に関する公的調査と、私自身が作業療法士として23年関わってきた医療・介護現場の組織観察から、この3つに共通点が集約されてきます。順に見ていきましょう。

構造①:1on1の習慣化

月1回、10分でいい。現場代理人または社長が、若手と1対1で話す時間を確保している会社は、サイン①〜②の段階で気づける確率が大幅に上がります。「最近どう?」「身体大丈夫?」「気になることある?」の3問だけで十分です。形式ばった面談を立派にやることより、頻度を担保することが効きます。

構造②:給与体系の見える化

「日給制で天候に左右される」という雇用不安定さは、若手が最も忌避する構造です。月給制への移行が難しい会社でも、「年間でいくらになるか」「悪天候続きでも保証される下限はいくらか」を本人と共有するだけで、不安は大きく下がります。住宅ローン・結婚・出産といった人生イベントを若手が描けるかどうかが、定着の根幹を握ります。

構造③:身体的訴えへの早期介入

「腰が痛い」と言われた時に、「現場では我慢しろ」ではなく、業務の見直し・産業保健への接続・必要に応じた医療機関への受診促しを行う会社は、若手だけでなくベテランの定着率も高い傾向にあります。痛みを軽視しないという経営姿勢自体が、若手から「この会社は大事にしてくれる」と認識される最強のメッセージになります。

この3つは、明日から始められて、追加コストもほぼかかりません。やる・やらないだけの違いです。

よくある質問(FAQ)

Q. 若手の離職を本気で減らすには、どこから手を付ければ効果が早いですか?

A. 最も投資対効果が高いのは、辞める前のサインを早く拾う仕組みづくりです。月1回の1on1(10分でも可)と、現場代理人による「最近どう?」の声かけのルーチン化が、コストをかけずに始められる出発点です。退職者の本音を聞く出口面談(退職決定後ではなく、退職前1ヶ月時点)の導入も、組織の改善点を炙り出すうえで有効です。

Q. 若手が「きつい」と言って辞めた場合、本当に作業のきつさが原因ですか?

A. 厚生労働省・国土交通省の調査では、企業側が考える離職理由(作業のきつさ・職業意識の低さ)と、若手自身が挙げる理由(雇用の不安定さ・休暇の取りにくさ・給与体系)には大きなギャップがあることが報告されています。表面的に「きつい」と言われた場合も、その奥に休暇・給与・将来不安が隠れている可能性が高いため、出口面談で具体に踏み込むことが重要です。

Q. 腰痛や疲労を訴えてきた若手は、辞意のサインと考えるべきですか?

A. 必ずしも辞意のサインとは限りませんが、身体的訴えは無視すべきではない初期サインです。私の23年の臨床経験から言えば、痛みや疲労の訴えは「仕事を続けられるかという不安」とセットで出ることが多くあります。痛みを軽視せず、業務の見直し・産業保健の介入・必要に応じて医療機関への受診を促すことが、定着率にも健康面にも有効です。

Q. 1on1を始めたいが、現場の社員に話を切り出すのが照れくさいです。

A. 「面談」と銘打つと現場代理人も若手も身構えます。お勧めは、休憩時間や移動の車内で「最近どう?」「身体大丈夫?」と聞くだけの形です。形式は不要です。継続的に、月1回程度の頻度で問いかけがあること自体が、若手から見て「気にかけられている」というシグナルになります。

Q. 健康経営優良法人の認定を取れば、若手の定着率は上がりますか?

A. 認定そのものが定着率を直接押し上げるわけではありません。重要なのは、認定取得のプロセスで会社が「健康・働き方・コミュニケーション」を見直すことです。認定はあくまで結果の証明書であり、過程で構造を変えた会社こそが、定着率の改善という果実を得ます。

まとめ——若手定着のために、明日からできる1つのこと

離職を1人減らすことは、採用1人を増やすより安く、確実です。次に若手が「腰が痛い」と言ってきた朝、その言葉の奥に何があるかを聞いてみてください。それが、辞めない会社への最初の1歩になります。

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本記事の出典

  1. 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和3年3月卒業者)」
  2. 厚生労働省「建設労働をめぐる情勢について」原文リンク
  3. 国土交通省「建設産業の現状と課題」関連資料
  4. 厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」原文リンク

本記事中の事例・現場描写のうち「臨床経験から」と明記した箇所は、著者(作業療法士歴23年)の臨床経験に基づく所感であり、特定の個人・企業を指すものではありません。また、医療効果や離職防止効果を保証するものではありません。