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従業員エンゲージメント×定着

従業員エンゲージメント|
退職代行から連絡が来る前に、社員は静かに離れている

著者: 三宮 孝太(作業療法士・株式会社DIALOG代表)

もし明日の朝、社員本人ではなく、退職代行の担当者から一本の電話が入ったら。貴社なら、どう受け止めるでしょうか。

その電話は、突然のできごとに見えます。ですが辞める意思は、声に出すよりずっと前から固まっていることがあります。働きがいが薄れていく過程は、その手前で静かに進んでいます。

本当に欲しいのは、辞める人をゼロにすることではないはずです。辞めたい理由が小さな芽のうちに気づける会社。そこにたどり着く入り口が、従業員エンゲージメントです。

株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、作業療法士として23年間、急性期医療の現場で「人が働き続けられる条件」を見てきた知見をもとに、中小企業の健康経営・人材定着支援を提供しています。blog-19(言えない文化と離職)やblog-108(上司の傾聴)でも、辞める手前の職場の空気を扱ってきました。本稿は、その根っこにある「働きがい」の話です。

この記事の要点

背景の前提: 令和5年の全国の離職率は15.4%でした(厚生労働省・雇用動向調査)。おおよそ6〜7人に1人が、1年の間に職場を離れている計算になります(出典は記事末尾)。

令和5年 離職率の3つの数字(全国・全産業)

15.4%
全体の離職率
12.1%
一般労働者の離職率
23.8%
パートタイム労働者の離職率

出典:厚生労働省「令和5年 雇用動向調査結果の概要」(2024年公表)

「退職代行」という最終地点から、逆算してみる

退職代行は、辞める意思を本人が直接伝えずに済ませる仕組みです。会社から見れば、その一本の連絡は突然に見えます。ところが連絡が届く時点で、心が離れていく過程は、たいてい終わっています。

だとすると、打つべき手は「連絡が来てから」ではありません。もっと手前、働きがいが削られ始めた場所にあります。

その電話が来たら、貸与物や最終出社日、有給休暇の扱いといった事務の確認は要ります。ですが会社の課題は、そこではなく、一本が来る前の日々の職場にあります。

「働きがい」が離職率を左右する——国の分析が示していること

厚生労働省の令和元年版「労働経済の分析」は、ワーク・エンゲイジメントを取り上げています。ワーク・エンゲイジメントとは、言い換えると「働きがい」です。仕事に活力を感じ、熱意を持ち、没頭できている状態を指します。

この分析は、働きがいが高いほど、会社への愛着が強まり、離職率が下がり、定着率が上がるという正の関係を示しました。働きがいは、気合いや根性の問題ではなく、離職率という数字に効く要素だということです。

では、働きがいはどこから生まれるのか。分析は「仕事の資源」から生まれると整理しています。仕事の資源とは、上司の支援、仕事を任される裁量、成長の機会、そして正当な承認などです。

ここで注意したいことがあります。人手不足のときほど、一人あたりの仕事の負荷は上がります。負荷が上がると、働きがいは削られやすくなります。だからこそ、意識して「資源」を足す必要があるのです。

ここまでの整理

働きがいは、社員の気持ちの持ちようではありません。上司の支援・裁量・承認・成長の機会という「仕事の資源」が足りているかの問題です。ここは、お金ではなく関わり方で動かせます。

設備投資ゼロで、明日から足せる「仕事の資源」

打ち手を、国の分析がいう「仕事の資源」に沿って並べてみます。どれも、新しい制度も予算も要りません。

仕事の資源現場での一手(設備投資ゼロ)
上司の支援週に1回5分、困りごとを一つだけ聞く時間を決める
承認結果だけでなく、途中の工夫や段取りに一言ふれる
裁量手順の一部を「やり方は任せる」と言葉にして渡す
成長の機会次に覚えてほしい技能を、本人に名指しで伝える
健康という土台働き続けられる心身を守る(睡眠・疲労・腰などの相談先を用意する)

最後の「健康という土台」だけ、少し補足します。心身が消耗していると、上の4つの声かけも届きにくくなります。だから健康は、働きがいを乗せる土台になります。健康経営は、その土台を実務として整える入り口です。

これは私が急性期医療の現場で見てきた限りの話です。人が力を出し続けられるかどうかは、本人の頑張りだけでは決まりません。周りからどれだけ支えられているかに、大きく左右されていました。職場でも、同じ構造が働いているように感じています。

もし1つだけ持ち帰るなら

今週、辞めてほしくない社員を一人だけ思い浮かべてください。その人に、途中の工夫をねぎらう一言を、今日かけられますか。それが、最初の「仕事の資源」になります。

よくある質問

Q. 従業員エンゲージメントとは何ですか?

A. 厚生労働省の労働経済の分析では「ワーク・エンゲイジメント」と呼び、仕事に活力・熱意・没頭を感じている状態を指します。平たく言えば、やらされ感ではなく、自分から力を出せている状態です。

Q. 従業員エンゲージメントが下がると、何が起きますか?

A. 令和元年版の労働経済の分析は、ワーク・エンゲイジメントが高いほど離職率が下がり定着率が上がるという正の相関を示しています。辞意は多くの場合、静かな離脱として先に表れます。

Q. 退職代行から連絡が来たら、まず何を確認すべきですか?

A. 貸与物の返却、私物、最終出社日、有給休暇の扱いなど、事務手続きの確認が中心になります。ただし会社側の本質的な課題は、その一本が来る前の職場側にあります。

Q. 設備投資なしで従業員エンゲージメントを上げられますか?

A. 上げられます。鍵は、労働経済の分析がいう「仕事の資源」です。上司の支援、任せる裁量、成長の機会、正当な承認などを指します。これらは、お金ではなく日々の関わり方で増やせます。

Q. 健康経営と従業員エンゲージメントは関係がありますか?

A. 関係します。働き続けられる心身の状態は、働きがいを支える土台です。心身が消耗していると、どんな声かけも届きにくくなります。健康経営は、その土台づくりの実務的な入り口になります。

最後に — 人材課題を抱える中小企業の経営者様へ

人材課題を抱える中小企業の経営者様へ。退職代行の一本を待つのではなく、その手前で、働きがいがどこで削られているかを見てください。DIALOGは急性期医療23年の知見をもとに、貴社の定着づくりにこの視点を落とし込むご提案をします。

著者プロフィール

三宮 孝太(株式会社DIALOG代表取締役 / 作業療法士)。作業療法士として23年、急性期医療の現場で「人が働き続けられる条件」を見続けてきました。その臨床知見をもとに、現在は健康経営・介護予防・ウェルネスの支援に取り組んでいます。

詳しいプロフィールを見る

制度づくりではなく、社員が働き続けられる会社になることを目的に伴走します

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DIALOGは、人材の定着と健康経営に課題を抱える中小企業を対象に、健康経営優良法人の取得支援をご提案しています(建設業向けには「ぱとす」による伴走支援も行っています)。働きがいを支える職場づくりや、健康という土台の整え方など、本記事のような視点も踏まえてご相談に応じます。貴社の業種・現状に合わせてご相談ください。

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参考データ

本記事は、著者(作業療法士歴23年・急性期医療従事)の臨床知見と、厚生労働省が公開する一次資料を踏まえた解説です。統計の数値や制度の詳細・最新情報は、各機関の公表資料で必ずご確認ください。「ワーク・エンゲイジメント」は厚生労働省の労働経済の分析で用いられている用語で、本記事では読みやすさのため「働きがい」と言い換えて説明しています。