人手が足りない。そう感じたとき、多くの会社がまず動くのは「求人を出す」ことです。ですが、その一手だけに賭けると、じわじわ消耗していきます。
令和8年6月の有効求人倍率は1.18倍、正社員にしぼると1.00倍でした。求職者一人を、複数の会社が取り合っている状態です。しかも、やっと採用しても、離職はゼロにはなりません。令和5年の離職率は15.4%でした。採る、辞められる、また採る——このくり返しは、穴の空いたバケツに水を注ぎ続けるのに似ています。
本当に必要なのは、蛇口をひねる勢いを強めることではなく、まずバケツの穴をふさぐことではないでしょうか。つまり、採用の前に、今いる人が辞めない・力を出す状態をつくることです。
株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、作業療法士として23年間、急性期医療の現場で「人が働き続けられる条件」を見てきた知見をもとに、中小企業の健康経営・人材定着支援を提供しています。本稿は、blog-112(定着)・blog-113(試用期間)・blog-114(生産性)で扱ってきた話を、「人手不足対策」という一つの流れにまとめ直すものです。
この記事の要点
- 人手不足対策を「採用を増やす」だけで考えると、採用難と離職のくり返しで消耗する
- 打つ順番は、①今いる人が辞めない(定着)→②今いる人が力を出す(生産性)→③採用。①②は採用より速く・安く効く
- 定着と生産性を底から支えるのが健康。ここは設備投資なしで着手できる
背景の前提: 令和8年5月時点で、正社員等の労働者不足を感じている事業所は、過剰を感じている事業所を大きく上回っています(労働者過不足判断D.I.は+47ポイントの不足/厚生労働省)。出典は記事末尾。
「採用だけ」では埋まらない、3つの数字
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年6月分)」「労働経済動向調査(令和8年5月)」「令和5年 雇用動向調査」
「採用を増やす」だけでは、穴の空いたバケツになる
採用は、人手不足への当然の一手に見えます。ですが今の採用市場は、求職者を会社が取り合う売り手市場です。有効求人倍率は1.18倍、正社員では1.00倍。中小企業が思うように採れる状況ではありません。
さらに、採用できても離職は起きます。全国の離職率は15.4%。つまり「採る力」だけを強めても、同時に「辞められる」が続けば、手元の人数はなかなか増えません。
ここで見落とされがちなのが、バケツの側です。注ぐ量を増やす前に、漏れを減らすほうが、多くの場合で速く効きます。
人手不足対策には"順番"がある — 採用は最後でいい
人手不足への打ち手は、次の順番で考えると整理できます。
| 順番 | 打ち手 | 対象 |
|---|---|---|
| ①まず | 今いる人が辞めない(定着) | 既存社員 |
| ②次に | 今いる人が力を出す(生産性) | 既存社員 |
| ③その上で | 採用する | 新しい人 |
①と②は、今いる社員が対象です。新しく探す必要がなく、採用より速く、費用もかかりません。不足感が強い今だからこそ、まず足元の①②から手をつける意味があります。
③の採用は、①②で土台を整えてからのほうが効きます。辞めにくく、力を出しやすい職場に人を迎え入れれば、採った人も定着しやすくなるからです。
ここまでの整理
人手不足対策は、採用が最初ではありません。①定着 → ②生産性 → ③採用の順番です。①②は既存社員が対象で、採用より速く・安く・確実に効きます。
採用に頼らず効く、定着×生産性の一手(設備投資ゼロ)
では①②で具体的に何をするか。DIALOGがこれまで扱ってきた打ち手を、局面ごとに一つの表にまとめます。どれも新しい設備は要りません。
| 局面 | 設備投資ゼロでできる一手 |
|---|---|
| 辞めない(定着) | 週に1回5分、困りごとを聞く。結果だけでなく途中の工夫をねぎらう |
| 立ち上がり(試用期間) | 合否だけでなく「続くサイン」を見る。仕事と本人の力のズレを確かめる |
| 力を出す(生産性) | 出社していても力が削られる不調(痛み・不眠・疲労)を早めに拾う |
| 土台(健康) | 睡眠・痛み・気分の相談先を用意し、無理をしない空気を上司からつくる |
最後の「健康」は、①②すべての土台です。作業療法士として急性期の現場で見てきた限りでも、心身が消耗した人は、力を出し続けることも、その場に留まり続けることも難しくなっていました。健康経営は、この土台を実務として整える入り口になります。
もし1つだけ持ち帰るなら
次に「人が足りない」と感じたら、求人票を出す前に一度だけ問い直してください。「今いる人が辞めそうな理由を、いくつ言えるか」。そこに、採用より速い一手が隠れています。
よくある質問
Q. 人手不足対策は何から始めるべきですか?
A. 採用を増やす前に、今いる人が辞めない(定着)と、今いる人が力を出す(生産性)から始めるのが効果的です。採用市場は有効求人倍率が高く、採用が成功しても離職は起きるため、既存社員への手当てのほうが速く効きます。
Q. なぜ採用より定着を先にすべきなのですか?
A. 採用は時間もコストもかかり、成功しても離職で振り出しに戻りやすいためです。定着と生産性の向上は今いる人が対象で、より速く、より確実にコストを抑えられます。
Q. 中小企業でも設備投資なしでできますか?
A. できます。週に1回5分の相談時間、途中の工夫への承認、試用期間での見極め、健康の相談先の用意など、日々の関わり方で取り組めます。
Q. 健康経営と人手不足対策はどう関係しますか?
A. 深く関係します。健康は定着と生産性の土台だからです。心身が消耗していると人は辞めやすく、出社しても力が出ません。健康を整えることが、人手不足対策の底支えになります。
Q. それでも人手が足りないときはどうすればよいですか?
A. 定着と生産性で土台を整えたうえで採用に進むと、採用した人も定着しやすくなります。順番が逆だと、採っては辞められる穴の空いたバケツの状態になりやすいです。
最後に — 人材課題を抱える中小企業の経営者様へ
人材課題を抱える中小企業の経営者様へ。人が足りないとき、求人票の前に、今いる人が辞めない・力を出す状態にまず目を向けてみてください。DIALOGは急性期医療23年の知見をもとに、貴社の定着づくりにこの視点を落とし込むご提案をします。