障害者雇用が進まないのは応募が来ないからだ、と考えていないでしょうか。
厚労省の調査で事業所が最も多く挙げた課題は、その手前にありました。「会社の中に、任せられる仕事があるか」。身体障害者の雇用では77.2%です。
採用の話に見えて、中身は仕事の設計の話でした。
株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、中小企業の採用・定着を、健康経営と採用設計の両面から支援しています。作業療法士として23年間、急性期医療の現場で「人が働き続けられる条件」を見てきた知見が土台です。本稿では、2026年7月に動いた制度と、「仕事がない」という見立ての中身を順に整理します。
この記事の要点
- 2026年7月から法定雇用率は2.7%。対象は常用労働者37.5人以上に広がった
- 未達成企業の64.0%は不足0.5人または1人。「あと1人」が過半数
- 1人目のための職務整理は、そのまま今いる社員の残業を削る
背景の前提: 令和7年6月1日現在、民間企業の実雇用率は2.41%、法定雇用率達成企業の割合は46.0%でした(厚生労働省)。出典は記事末尾。
未達成企業の実像
出典:厚生労働省「令和7年 障害者雇用状況の集計結果」
2026年7月、「対象になる会社」の線が動いた
自社が義務の対象かどうかを分ける線は、この1年で2回動きました。
障害者雇用促進法は、常時雇用する従業員の一定割合以上の障害者を雇うことを事業主に義務づけます。この割合が法定雇用率です。民間企業では2026年7月に2.7%へ上がり、対象も40.0人以上から37.5人以上に広がりました。
もう一つの変更が除外率です。雇用率を計算する分母から、業種ごとに一定割合の労働者を差し引く経過措置です。言い換えると、義務人数を小さくする仕組みです。
これが2025年4月に全業種一律で10ポイント下がりました。差し引ける人数が減れば、従業員数が同じでも義務人数は増えます。社内は変わらないのに義務だけが近づいた会社があります。
| 時点 | 変わったこと |
|---|---|
| 2025年4月 | 除外率を全業種一律で10ポイント引き下げ |
| 2026年7月 | 法定雇用率 2.5%→2.7%/対象 40.0人以上→37.5人以上 |
未達成の負担は2つです。1つはお金。常用労働者100人超の未達成企業からは、不足1人あたり月額5万円の納付金が徴収されます。100人以下は対象外。
もう1つは行政指導です。未達成が続くとハローワークから雇入れ計画の作成命令が出ることがあります。進まなければ勧告、特別指導と続き、改善しなければ企業名が公表されます。
未達成企業の6割は、「あと1人」で線を越える
数字を並べると、届いていない会社の姿は思ったより近くにあります。
令和7年6月1日現在、未達成企業は65,033社。うち不足数が0.5人または1人の企業が64.0%。障害者を1人も雇用していない企業も37,262社ありました。
未達成の中身は「大量に足りない」ではありません。「1人目が決まっていない」です。
企業規模別の実雇用率(令和7年6月1日現在)
出典:厚生労働省「令和7年 障害者雇用状況の集計結果」
規模が小さいほど実雇用率は低くなります。40.0〜100人未満の1.94%は、2.7%とは距離があります。
ところが達成企業の割合では別の面が出ます。40.0〜100人未満の達成率44.7%は、300〜500人未満の40.3%を上回ります。規模が小さいことは、それ自体で不利とは限りません。
ここまでの整理
2026年7月から法定雇用率は2.7%、対象は常用労働者37.5人以上に。未達成企業の64.0%は不足0.5人または1人です。問われているのは「1人目をどう迎えるか」の一点です。
最も多い課題は、人ではなく「仕事」だった
事業所が挙げた課題の1位は、採用でも制度でもありませんでした。
令和5年度障害者雇用実態調査では、雇用上の課題が「ある」と答えた事業所が63.0〜66.2%。最多の中身が「会社内に適当な仕事があるか」です。身体障害者で77.2%、知的障害者で79.2%、精神障害者で74.2%、発達障害者で76.9%。障害の種類を問わず1位でした。
2位は「障害者を雇用するイメージやノウハウがない」で41.7〜51.6%。どちらも人の話ではなく、仕事の側の話です。
これは私の見立てですが、起きているのは「探し方」の問題ではないかと感じます。
作業療法士の仕事は、作業を分けて組み直すことです。急性期医療の現場で23年、その作業を続けてきました。
食事は一つの動作に見えて、実は十数個の手順の連なりです。麻痺のある方が「食事ができない」とき、難しいのは蓋を開ける、器を押さえるといった数個の手順でした。そこだけ道具や環境で補うと、残りはご本人が進められます。
職場の仕事も同じです。「現場管理」「経理」という呼び名は、多数の手順の束を指します。束のまま眺めても、任せられる仕事は見つかりません。
順番はこうです。一つの職務を手順に書き出す。まとまった時間を確保しやすい手順と、その場の対人交渉が発生する手順に分ける。前者を集めて、一つの役割にまとめる。
分けているのは、人の能力ではありません。職務の中身です。切り出す手順は、迎える方によって変わります。判断の要る職務をそのまま担っていただき、必要なのは机の高さと動線だけ、ということもあります。
集めた役割は、既存社員の残業を減らします。採用であると同時に、業務設計の話です。
「続かない」も、一度確かめてみる価値がある
定着の実データは、印象と食い違います。
同じ実態調査では、平均勤続年数は身体障害者12年2か月、知的障害者9年1か月。精神障害者は5年3か月、発達障害者は5年1か月です。短い数字ばかりではありません。
配慮の中身も公表されています。精神障害者では「短時間勤務等勤務時間の配慮」が54.3%、知的障害者では「能力が発揮できる仕事への配置」が51.1%で最多でした。
中心にあるのは、大がかりな設備投資ではありません。時間と配置の調整です。
なお、合理的配慮の提供は企業規模を問わず事業主の義務です。過重な負担となる場合は、この限りでないと定められています。「うちは小さいから関係ない」は成り立ちません。
もう一つ、見落とされやすい入口があります。障害は採用の時点であるとは限りません。同調査では、採用後に身体障害者となった従業員を雇用する事業所の69.9%が、職場復帰への配慮を行っていました。
今いる社員が病気やけがをしたとき何ができるか。障害者雇用の準備は、その備えと重なります。関連する視点は治療と仕事の両立支援(両立支援)、適材適所の配置(適材適所)、高齢者雇用と再雇用(高齢者雇用)でも扱っています。
もし1つだけ持ち帰るなら
「うちには任せる仕事がない」と考えた日に、問いをもう一つ足してみてください。「任せられる"仕事"はないとして、任せられる"手順"もゼロか」。
よくある質問
Q. 障害者雇用の義務は、何人以上の会社にありますか?
A. 2026年7月から、常用労働者37.5人以上の民間企業が対象です。法定雇用率が2.5%から2.7%へ上がったことに伴う変更で、それ以前は40.0人以上でした。
Q. 従業員100人以下なら、達成できなくても負担はありませんか?
A. 障害者雇用納付金の徴収対象は常用労働者100人超のため、100人以下は対象外です。ただし雇用義務は37.5人以上にかかります。未達成が続くと、雇入れ計画の作成命令や勧告、企業名公表の対象になり得ます。
Q. 社内に任せられる仕事が見当たりません。どう探せばよいですか?
A. 令和5年度障害者雇用実態調査でも、この点を挙げた事業所が最多で、身体障害者の雇用では77.2%でした。作業を手順に分け、判断が要らない手順を集めて一つの役割にする順番で探してみてください。
Q. 合理的配慮は、小さな会社にも義務がありますか?
A. 企業規模を問わず、すべての事業主が対象です。過重な負担となる場合は、この限りでないと定められています。実態調査で多い配慮は勤務時間の調整や休暇・休憩の取りやすさで、大がかりな設備投資が前提ではありません。
Q. 障害のある社員は、長く働き続けられるのでしょうか?
A. 令和5年度障害者雇用実態調査では、平均勤続年数は身体障害者12年2か月、知的障害者9年1か月、精神障害者5年3か月、発達障害者5年1か月でした。短期間で入れ替わることを前提にした数字ではありません。
最後に — 従業員40人前後で、あと1人足りない会社の社長へ
人材課題を抱える中小企業の経営者様へ。制度の線は2026年7月に動きました。動いたのは、線だけです。
先に見るべきは、自社の職務がどんな手順でできているかだと考えています。そこを一度ほどけば、義務への対応と、今いる社員の負担軽減が同じ作業の中でつながります。
DIALOGは作業療法士23年の知見をもとに、貴社の採用・定着にこの視点を落とし込むご提案をします。