「ベテランが脳梗塞で倒れた。退院は決まったが、現場に戻せるのか判断がつかない」——北海道の中小建設業の社長から、こうしたお話をうかがう機会が、この一年で確かに増えてきました。
株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、作業療法士として23年間、医療と介護の現場で脳卒中・がん・運動器疾患からの復職支援に関わってきた知見をもとに、北海道の中小建設業に向けた健康経営支援を提供しています。制度の枠組みと現場の身体機能の両面から、休職した職人を迎える社内体制づくりを支えるのが、私たちの役割です。
本記事では、2026年4月に施行された治療と仕事の両立支援の努力義務化を起点に、中小建設業の社長が今やる3つの実務を整理します。読み終えたあとに、「来週から人事担当とこの順序で動こう」と判断できる材料をお渡しすることが目標です。
この記事の要点
- 2026年4月から治療と就業の両立支援が事業主の努力義務化(改正労働施策総合推進法)
- 中小建設業の両立支援プラン策定率は低水準で、未着手の事業所が多い実態がある
- 「休職中の連絡経路・復職判定・段階的配置」の3点を整えれば、努力義務の中核は満たせる
制度の前提: 改正労働施策総合推進法に基づく治療と就業の両立支援指針(令和8年厚生労働省告示第28号)が2026年2月10日に公表され、同年4月から施行されています(出典は記事末尾)。
この記事でご一緒に考えたいこと
- 2026年4月の努力義務化で、何が変わったのか
- 建設業に固有の論点——身体作業と疾患の組み合わせ
- 今やる3つの実務——連絡経路・復職判定・段階的配置
- 動ける段階での介入が、選択肢を残す
2026年4月、両立支援は「やればよいこと」から「努力義務」に変わった
改正労働施策総合推進法により、治療と就業の両立支援は2026年4月から事業主の努力義務となりました(出典:厚労省)。同年2月10日には、事業主が取り組むべき内容を示す指針が告示されています(令和8年厚生労働省告示第28号)。
努力義務とは、罰則のある義務ではありません。けれど、求められる取り組みの方向が告示として示されている以上、「やっていないこと」は説明が難しくなっていきます。労災・健康診断・ストレスチェックと同じ位置に、両立支援が並んだと考えるのが現実的です。
労働政策研究・研修機構の2022年調査では、両立支援プランが策定された割合は、がんで24.4%、脳血管疾患で18.4%、心疾患で16.8%にとどまっています(出典:JILPT 調査シリーズNo.241)。言い換えると、8割前後の事業所では、誰かが倒れてから対応を考える状態が続いてきた、ということです。
建設業に固有の論点——身体作業と疾患の組み合わせ
事務職と建設業の現場職で、両立支援の難しさは同じではありません。私の23年の臨床現場で見てきた限り、デスクワーク中心の方は段階復職の設計が比較的組みやすい印象があります。一方、身体を使う現場の方は「どの作業まで戻せるか」の判断が、一段難しくなる傾向があります。
建設業に固有の論点は、おおむね次の3つに集約されると感じています。
- 高所作業・重量物・夜間業務など、負荷の高い作業が日常に含まれる
- 現場が分散しており、本人の体調変動に即応する管理が難しい
- 同僚も身体を使う仕事で、軽作業のシェアに限界がある
こうした構造があるため、建設業では「復職できるか/できないか」の二択ではなく、「どの作業を、どの順序で、どの期間かけて戻すか」という設計の問いが本質になります。これは私が脳卒中後の復職支援で何度も向き合ってきた論点と、同じ筋の話です。
実務1:休職中の連絡経路を、初日に決める
休職が決まったその日に整えたいのは、本人と会社の連絡経路です。厚生労働省の両立支援ガイドライン(令和6年3月版)も、休職中の連絡頻度・連絡手段・社内窓口を本人と事前に取り決めておくことを推奨しています。
連絡経路で決めておきたいのは、次の4点に絞ると進みやすくなります。
- 社内の窓口担当者を一人に決める(人事・総務・直属上司のいずれか)
- 連絡の頻度(月1回・治療段階の節目など)と手段(電話・メール・面談)
- 本人から会社へ伝えてほしい事項(治療段階・主治医意見書の入手見込み等)
- 会社から本人へ伝える事項の範囲(業務情報の伝達は本人希望に応じる)
最初の連絡で「いつ戻れそうか」を尋ねる前に、「今日の調子はいかがですか」と本人の状態を聞ける窓口担当者がいるか。これが、その後の信頼を大きく左右していると感じています。医療現場の退院前カンファレンスで、何度も繰り返し経験してきた手応えと同じ感覚です。
実務2:復職判定は「動ける段階での」介入が選択肢を残す
復職の可否を判定する場面では、主治医意見書と本人の希望、会社の作業負荷の3つを照合します。ここで重要なのは、「完全に元に戻ってから判定する」ではなく、動ける段階で段階復職の設計に入る姿勢です。
私の23年の臨床現場で観察してきた限り、人が仕事を辞める転換点は、心理的な決断より先に、動けなくなって出勤できないという物理的な事実が来るパターンが多いと感じています。本人が「辞めよう」と判断する前に、身体や生活の段取りが先に決めてしまうことが少なくありません。だからこそ、「本人が困ったら相談に乗る」のタイミングでは、もう選択肢が狭まり始めています。動ける段階で会社の側から段取りを示すことが、復職の可能性を最大化する唯一の手立てになります。
復職判定で確認したい3つの情報
- 主治医意見書——就業可能な作業範囲・避けるべき作業・通院頻度の3点が記載されているか
- 本人の希望——戻りたい役割・不安に感じる作業・家族の支援状況
- 会社の作業分解——元の役割を作業単位に分解し、どの作業を戻せるか一つずつ照合
※主治医意見書の様式は労働者健康安全機構の疾患別マニュアルに参考様式が掲載されています。
脳卒中後の復職率について、厚生労働科学研究の分担研究報告書は、複数の国際研究のレビューとして平均44%という値を紹介しています(出典:厚生労働科学研究費補助金 分担研究報告書)。建設業の現場作業に限った数字ではないため、自社に当てはめる際は、慎重な解釈が必要になります。けれど、適切な復職設計を行えば一定の割合で職場復帰が可能であることを示す目安として、社内議論の出発点に使える数字です。
実務3:段階的配置で、3〜6か月の中間役割を置く
復職した初日から元の役割へ全面的に戻すと、再休職のリスクが上がる傾向があります。中間に「段階復職の役割」を3〜6か月置く設計が、結果的に定着率を上げているケースが多いと感じています。
建設業で組みやすい中間役割の例を挙げると、次のようなものがあります。
- 現場監督補佐——書類管理・写真整理・安全朝礼の進行などを担当
- 安全パトロール——複数現場を巡回し、危険箇所のチェックリストを記録
- 若手指導役——技能伝承の時間を作業時間の中に組み込む
- 事業所内の整備・段取り役——資材管理・工具整備・現場前準備
こうした中間役割は、本人の経験値を活かしつつ身体負荷を下げる設計です。同時に、若手の育成や安全管理という別の経営課題と接続できる枠組みでもあります。「戻ってきた職人にどう接するか」という個別対応ではなく、「会社の人員配置の設計図に最初から組み込む」発想が、続けやすさを生んでいます。
努力義務化を、定着率を上げる仕組みづくりの追い風にする
努力義務化は、書類仕事が増える話に見えるかもしれません。けれど中身は、「ベテランが倒れたとき、社内のどこで誰が動くかを、紙の上に一度書いておく」ことです。これは、若手が辞めにくい会社・採用で選ばれる会社の土台と、同じ場所にあります。
明日からできる最初の一歩は、「休職中の社員・通院しながら勤務する社員の人数を、人事担当に確認する」ことです。それだけで十分なスタートになると感じています。人数がわかれば、必要な仕組みの規模が見えてきます。
3つの実務のうち、どこから手をつけるか迷う社長は少なくありません。確認した人数と、自社の現場体制をふまえて、「うちなら最初にどの実務から動くべきか」を、無料の個別相談で30分ご一緒に整理しましょう。
よくある質問
Q. 両立支援は法律でどこまで義務になっていますか?
A. 2026年4月施行の改正労働施策総合推進法により、治療と就業の両立支援は事業主の努力義務とされました。同年2月に公表された治療と就業の両立支援指針(令和8年厚生労働省告示第28号)が、事業主の取り組みの基本方針として位置づけられています。罰則のある義務ではありませんが、求められる取り組みの方向は指針で具体的に示されています。
Q. 中小建設業でも両立支援プランを作る必要がありますか?
A. 指針上は企業規模で線引きされておらず、中小企業も含めて努力義務の対象になります。労働政策研究・研修機構の2022年調査では、がんで両立支援プランが策定された割合は24.4%、脳血管疾患では18.4%にとどまっており、中小企業ほど未着手の事業所が多い実態がうかがえます。書面の整え方そのものは、地域産業保健センター等の無料支援を活用すれば、小規模な体制でも進められます。
Q. 脳卒中で倒れた職人が現場に戻れる見込みは、どのくらいありますか?
A. 脳卒中後の復職率について、厚生労働科学研究の分担研究報告書は、複数の国際研究のレビューとして平均44%という値を紹介しています。建設業の現場作業に限った数字ではありませんが、適切な復職支援を行えば一定の割合で職場復帰が可能であることを示す目安として参照できます。
Q. 休職中の職人にどこまで連絡してよいのか、判断に迷います
A. 厚生労働省の両立支援ガイドラインは、休職中の連絡経路と頻度を本人と事前に取り決めておくことを推奨しています。本人の体調・治療段階を尊重しつつ、社内の窓口を一本化し、書面で連絡ルールを残しておくと双方の負担が軽くなります。最初の連絡で「会社の都合」より「本人の今の状態」を尋ねる姿勢が、本人の安心感に大きく影響していると感じています。
Q. 復職後の現場配置はどう判断すればよいですか?
A. 主治医意見書と本人の希望をもとに、現場の作業負荷を分解して照合する手順が現実的です。重量物の運搬・高所作業・夜間勤務など、負荷の高い作業を一つずつ確認し、段階的な復帰を組み立てる発想が機能します。一度に元の役割に戻すより、現場監督補佐や安全パトロール等の中間役割を3〜6か月置く設計が、定着率を上げているケースが多いと感じています。
最後に — 中小建設業の社長へ
努力義務化は、社長の机に新しい紙を1枚増やす話に見えるかもしれません。けれど本質は、ベテランが倒れた瞬間に、社内が止まらない仕組みを先に書いておくことです。書類は、本人と会社の両方を守る道具になります。
DIALOGは、作業療法士23年の臨床経験で培った「人が働き続けられる条件を見抜く目」と、改正労働施策総合推進法・両立支援指針の最新動向の理解の両方を持っています。この両輪で、貴社に最適な両立支援の社内体制づくりを伴走します。書類雛形の整備にとどまらず、現場配置の設計まで一貫してご提案するのが、私たちの提供価値です。
まずは、現在の休職者・通院勤務者の人数を1枚、確認するところから動いてみてください。そこから先のステップは、私たちと一緒に詰めていきましょう。