「発症後5日、解熱後2日」。この数字は、会社の決まりではありません。
学校保健安全法施行規則が定める学校の出席停止期間です。厚労省の公表資料にもそう書かれています。職場での休みの日数を定めた法令は、季節性インフルエンザにはありません。
つまり、社員をいつ現場に戻すかは会社が決めています。決めていない会社では年ごと担当者ごとに判断がぶれ、熱が下がった翌日に出社する人が出ます。
株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、中小企業の採用・定着を、健康経営と採用設計の両面から支援しています。作業療法士として23年間、急性期医療の現場で「人が働き続けられる条件」を見てきた知見が土台です。本稿では、冬の欠勤で現場が止まる前に、秋のうちに決めておく実務を整理します。
この記事の要点
- 「発症後5日、解熱後2日」は学校保健安全法施行規則の出席停止期間。職場の基準ではない
- 厚生労働省は、職場が治癒証明書・陰性証明書を求めることを望ましくないとしている
- 秋のうちに決めるのは、復帰の目安・証明書の扱い・ワクチンの手配の3つ
時期の前提: 厚生労働省は、12月中旬までにワクチン接種を終えることが望ましいとしています。出典は記事末尾。
秋のうちに押さえておきたい3つの数字
出典:厚生労働省「令和8年度夏期 急性呼吸器感染症(ARI)等への対策に関するQ&A」/日本健康会議・経済産業省「健康経営優良法人2027(中小規模法人部門)認定要件」
「発症後5日」は、どこから来た数字か
この数字の出どころは、学校です。
厚労省のQ&Aは、こう記しています。学校保健安全法施行規則では「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を経過するまで」が出席停止期間である、と。対象は児童生徒です。
職場には、これに当たる規則がありません。学校の基準が引用されるのは、ほかに参照できる数字が少ないからです。
借りること自体は問題ありません。問題は、借りたまま社内の文書に書いていないことです。
| 学校(児童生徒) | 職場(従業員) | |
|---|---|---|
| 根拠 | 学校保健安全法施行規則 | インフルエンザについての定めなし |
| 期間 | 発症後5日かつ解熱後2日(幼児は3日) | 会社が決める |
| 証明書 | 提出は不要 | 求めることは望ましくない |
体の側の事情も押さえます。同じQ&Aは、発症前日から発症後3〜7日間は鼻やのどからウイルスを排出するとしています。排出量は解熱とともに減りますが、解熱後も続き、長さには個人差があります。
「熱が下がったら出社」は体の実態と合いません。厚労省も、無理をして学校や職場等に行かないよう呼びかけています。
会社が秋のうちに決める3つ
決めるのは制度ではなく、判断の手間を減らす取り決めです。
1. 復帰の目安を、社内の文書に1行で書く
参考にする数字は、学校の基準でかまいません。大事なのは、それを「自社のルール」として書き出すことです。
書いていないと毎回その場の判断になります。判断する人が現場の忙しさを知るほど、目安は短いほうへ動きます。
あわせて休んだ日の扱いも決めます。年次有給休暇か、欠勤か、特別休暇か。会社の判断で法定を超えて休ませる場合は賃金の扱いが変わり得ます。個別の判断は社会保険労務士にご確認ください。
2. 治癒証明書は求めない。代わりに何を見るか
厚生労働省の記述は明確です。「職場が従業員に対して、治癒証明書や陰性証明書の提出を求めることは望ましくなく、提出は不要です」。
理由も示されています。陰性の証明が難しいこと。そして、医療機関に過剰な負担をかける可能性があることです。
証明書を求めれば、社員はもう一度受診します。時間も費用も本人側に乗ります。
代わりに見るのは症状です。咳やくしゃみが続くならマスクの着用を求める。厚生労働省は、事業者が感染対策上または事業上の理由で着用を求めることは許容されるとしています。ただし障害の特性等で着用が難しい場合は、個別の事情に配慮するよう求めています。
3. ワクチンの手配は、12月中旬から逆算する
厚生労働省は、12月中旬までに接種を終えることが望ましいとしています。日本では例年12月から3月頃に流行し、1月末から3月上旬にピークを迎えるためです。
効果は公表資料どおりに押さえます。発病を抑える効果が一定程度認められ、重症化を予防する効果も期待されています。感染そのものを完全に抑える働きはない、とも記されます。
予防接種法上の定期接種の対象は、65歳以上の方と、60歳から64歳で一定の基礎疾患がある方です。それ以外は任意接種で、受けるかは本人が決めます。
会社が決められるのは、費用を補助するかと、受けに行く時間の扱いです。秋のうちに決めれば12月中旬に間に合います。
| 決めること | 決める中身 | いつまでに |
|---|---|---|
| 復帰の目安 | 何日休むかの目安と、休んだ日の扱い | 流行期の前 |
| 証明書の扱い | 治癒証明書は求めず、症状で判断すると明記 | 流行期の前 |
| ワクチンの手配 | 費用補助の有無、接種に行く時間の扱い | 12月中旬から逆算 |
ここまでの整理
3つとも、お金のかかる制度ではありません。その場で迷う時間を先に潰す取り決めです。1枚にまとめて配れば、冬の判断は現場で完結します。
なお、労働安全衛生規則第61条には病者の就業禁止の定めがありますが、季節性インフルエンザは一般に対象とされていません。
「休める会社か」は、12月にはっきり出る
ルールがない職場では、遠慮が判断の代わりになります。
急性期医療の現場で23年、感染対策の決まりがある職場にいました。いつから業務に戻れるかは文書で決まっており、本人が迷う場面も、上司が忖度する場面もありません。
これは私の見立てですが、中小企業で「休めない」と言われる背景にあるのは、制度の不足よりも基準の不在です。基準がないと、休むかが本人の遠慮に委ねられます。人が少ない職場ほど遠慮は強く働きます。
結果として、体調の悪い人が現場に立ちます。本人の力は落ちたままで、うつるおそれも残ります。出社していても生産性が落ちる状態のコストはプレゼンティーズムで整理しました。
この取り組みは、そのまま制度の要件にもなります。健康経営優良法人2027(中小規模法人部門)では健康保持・増進施策の7項目のうち4項目以上が求められ、感染症予防はその一つです(小規模法人特例は2項目以上)。
すでにやっていることを書き出すだけで、要件の1つが埋まります。認定の全体像は健康宣言と申請の期限で扱いました。
この紙1枚は採用でも使えます。求職者が見るのは制度の名前ではなく、実際に休めた実績です。復帰日と証明書の扱いが文書なら、面接で示せる材料になります。
12月の対応は翌春まで残ります。休めなかった記憶は退職面談で出ます。休めた記憶は、求人票の一行を裏づけます。
もし1つだけ持ち帰るなら
今週、この1問に答えられるか試してください。「インフルエンザにかかった社員は、何日休んで、いつ戻ると決まっていますか」。文書を示せないなら、そこが最初の決めどころです。
よくある質問
Q. インフルエンザにかかった従業員は、何日休ませればよいですか?
A. 日数を定めた職場向けの法令はありません。よく引用される「発症した後5日、解熱した後2日」は、学校保健安全法施行規則が定める学校の出席停止期間です。会社は、この考え方を参考に、自社の復帰の目安を社内の文書に定めることになります。
Q. 復帰のときに治癒証明書や陰性証明書を出させてよいですか?
A. 厚生労働省は、職場が従業員に治癒証明書や陰性証明書の提出を求めることは望ましくなく、提出は不要としています。陰性の証明が難しいことと、医療機関に過剰な負担をかける可能性があることが理由です。
Q. インフルエンザワクチンは、いつまでに接種すればよいですか?
A. 厚生労働省は、12月中旬までに接種を終えることが望ましいとしています。日本では例年12月から3月頃に流行し、1月末から3月上旬にピークを迎えるためです。社内で費用や日程を決める時間を考えると、秋のうちに動くことになります。
Q. 従業員に予防接種を義務づけることはできますか?
A. 定期接種の対象は、65歳以上の方と、60歳から64歳で一定の基礎疾患がある方です。それ以外は任意の接種で、受けるかどうかは本人が決めます。会社ができるのは、費用の補助や受けやすい時間の確保です。
Q. 職場の感染症対策は、健康経営優良法人の認定要件に関係しますか?
A. 関係します。健康経営優良法人2027(中小規模法人部門)の認定要件には、感染症予防対策として「感染症予防に関する取り組み」が置かれています。具体的な健康保持・増進施策の7項目のうち4項目以上が求められ、感染症予防はその一つです。
最後に — 1人抜けたら回らない現場を持つ社長へ
冬に現場を止めるのは感染症だけではありません。決まっていないことを、その都度決め直す時間も止めます。
復帰の目安、証明書の扱い、ワクチンの手配。この3つは秋のうちに紙1枚で片づきます。
秋に決めた3つは、冬に現場を止めないためのものです。そして翌春、休める会社かどうかとして人に効きます。