令和6年度、ハローワークが把握した指摘は854件。応募者から「本人の適性・能力以外の事項を把握された」と申し出があった件数です。
最も多かったのは、家族に関する質問でした。
厚生労働省はこう書き添えています。面接の空気を和らげるために聞いてしまうケースが多いようですので、注意しましょう、と。悪気のない一言が、件数の中身です。
代表の三宮は、作業療法士として23年間、急性期医療の現場に立ってきました。見続けてきたのは「人が働き続けられる条件」です。株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、その知見をもとに中小企業の健康経営・人材定着支援を提供しています。本稿では面接での健康の扱いを、気配りの問題ではなく、選考ルールと定着設計の問題として整理します。
この記事の要点
- 厚生労働省が示す「採用選考時に配慮すべき事項」は14項目。家族の健康・病歴を尋ねること、必要性の認められない採用選考時の健康診断が含まれる
- 雇入時の健康診断は、入職後の適正配置と健康管理のためのもの。応募者の採否を決めるために実施するものではないと明示されている
- 高校新卒者の選考開始は9月16日。学校等からの通報にもとづき、労働局とハローワークが事実確認と是正指導を行っている
制度の前提: 厚生労働省「公正な採用選考をめざして」。令和9年3月新規高等学校等卒業者の選考開始・採用内定開始は9月16日(出典は記事末尾)。
「聞いてはいけない」とされているのは、質問だけではない
応募用紙に書かせること、面接で尋ねること、実施すること。いずれも就職差別につながるおそれがあるとされます。中身は3つの層に分かれます。
| 区分 | 含まれる事項 |
|---|---|
| 本人に責任のない事項 | 本籍・出生地/家族に関すること(職業・続柄・健康・病歴・収入など)/住宅状況/生活環境・家庭環境 |
| 本来自由であるべき事項 | 宗教/支持政党/人生観・生活信条/尊敬する人物/思想/労働組合など社会運動/購読新聞・愛読書 |
| 採用選考の方法 | 身元調査などの実施/適性・能力に関係ない事項を含んだ応募書類の使用/合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施 |
健康は2か所に顔を出します。「家族に関すること」の中と、選考の方法にある健康診断です。
本人の健康状態を尋ねること自体は、名指しでは書かれていません。ただ判断の軸は共通です。適性と能力に関係のない事項を、採否の材料にしない。この一点です。
雇入時の健康診断は、採否を決める道具ではない
ここが一番ねじれやすい箇所です。
労働安全衛生規則には、雇入時の健康診断の定めがあります。義務です。だから「採用前に受けさせておくのが安全だ」と考える会社があります。
厚生労働省の説明は違います。労働局は、雇い入れ時の健康診断をこう位置づけています。雇い入れた際の適正配置と入職後の健康管理に役立てるためのもの。採用選考時の実施を義務づけたものではなく、採否を決定するために実施するものでもない。
健診は「採るかどうか」を決める道具ではありません。「採ったあと、どこに置くか」を決める道具です。
厚生労働省のQ&Aも同じです。必要性を慎重に検討し、合理的かつ客観的に必要な場合を除いて実施しないよう求めています。
必要性を検討しないまま実施すると、判断に必要のない情報を会社が持ちます。その結果として就職差別につながるおそれがある。労働局はそう説明しています。
9月16日、全国の高卒面接が一斉に始まる
高校新卒者の採用には、全国共通の日程があります。全国高等学校長協会・主要経済団体・文部科学省・厚生労働省の申し合わせです。
高校新卒者採用の日程と、小規模事業所の定着実態
出典:厚生労働省「令和9年3月新規高等学校等卒業者の就職に係る採用選考期日等」/同「新規学卒就職者の離職状況」
高校新卒者の採用には、中途採用にはない経路があります。間に学校が入ることです。東京労働局は、学校等からの通報にもとづき労働局とハローワークが事実確認と是正指導を行うと記しています。
面接で何を聞いたかは、学校に伝わる経路があります。
守っているのは法令遵守だけではありません。学校から推薦され続ける会社であること。採った高卒者が3年後も残っていること。求人票と学校訪問の工数は、この2つで回収できます。
「体力に自信はありますか」は、一見すると業務適性の質問です。ですが答えるかどうかを、18歳の応募者に迷わせることになります。答えさせた時点で、会社は適性判断に必要のない情報を抱えます。
ここまでの整理
健診も質問も、一律に禁じられてはいません。分かれ目は必要性です。その情報がなければ適性を判断できないのか。答えが「いいえ」なら、聞かない側に置きます。
聞かない代わりに、示す側に回る
では、健康の話を面接から消すのか。そうではありません。向きを変えます。
聞き出す側から、示す側に回ります。
| 聞き出す側(必要性を説明しにくい) | 示す側(会社が先に情報を渡す) |
|---|---|
| 持病はありますか | 1日の作業内容をご説明します。気になる工程はありますか |
| 体力に自信はありますか | 休憩の取り方と繁忙期の勤務時間をご説明します |
| 通院していますか | 体調で調整が必要になったとき、誰にどう伝えるかをご説明します |
| ご家族に病気の方はいますか | 尋ねません(「家族に関すること」に含まれます) |
右側はすべて会社側の情報開示です。応募者から取らずに、判断材料を渡します。
業務に不可欠な条件を確認する場面もあります。基準は同じです。合理的・客観的な必要性を説明できるか。説明できるなら、必要性と検査内容を先に伝えて進めます。
これは私の見立てですが、健康状態で応募者を選別しても、その人が続くかどうかは当たりません。
急性期医療の現場に23年立ってきました。「もう続けられない」と仕事を離れる方を、何度も見てきました。退院前に職場との調整を伺う場面で見えたのは、続けるか辞めるかを決めているのが本人の意欲ではないことです。職場の受け入れ態勢がどれだけ柔軟か。そちらが強く効いていたように感じています。
面接時点で健康な人が、3年後も同じとは限りません。逆に、持病を抱えながら長く働き続ける方もいます。差がつくのは、体調が変わったとき勤務を調整できる職場かどうかでした。
選別の精度を上げても、定着は動きません。受け入れ態勢を設計するほうが、経営者が動かせる範囲は広いと考えています。
示す材料は制度側にもあります。認定は、聞かずに示せる第三者の証明になります。ACTION!健康経営ポータルが公開する就活生向けの啓発広報物は、採用活動でリーフレットやポスターに使えます。
認定申請の入口は健康経営優良法人の申請と健康宣言、面接の会話設計は面接で使う質問5つで整理しています。
もし1つだけ持ち帰るなら
今週、面接の質問票を開いてください。健康・体力・通院・家族に触れる項目に印をつけ、「この情報がなければ適性を判断できないか」を1問ずつ確かめます。答えが「いいえ」なら、9月16日までに消します。
よくある質問
Q. 採用面接で応募者の健康状態を聞くこと自体が、禁止されているのですか?
A. 厚生労働省が整理する14事項に、本人の健康状態を尋ねることは名指しされていません。含まれるのは、家族の健康・病歴を尋ねることと、必要性が認められない採用選考時の健康診断です。判断の軸は、適性と能力に関係のない事項を採否の材料にしないことです。
Q. 雇入時の健康診断は義務のはずです。採用前に受けさせてはいけないのですか?
A. 労働局は、雇い入れ時の健康診断を、雇い入れた際の適正配置と入職後の健康管理に役立てるためのものと位置づけています。採用選考時の実施を義務づけたものではなく、採否を決定するために実施するものでもありません。
Q. 高所作業など、体力が業務に直結する場合はどう扱えばよいですか?
A. 厚生労働省は、採用選考時の健康診断の必要性を慎重に検討するよう求めています。合理的かつ客観的に必要である場合を除いて実施しない、という考え方です。実施する場合も、検査内容と必要性を事前に十分説明することが求められます。
Q. 高校新卒者の採用選考は、いつから始められますか?
A. 令和9年3月新規高等学校等卒業者の場合、応募書類の提出開始が9月5日、選考開始と採用内定開始が9月16日です。沖縄県は書類提出が8月30日です。
Q. 面接で不適切な質問をしてしまった場合、どうなりますか?
A. 東京労働局は、学校等からの通報にもとづき労働局とハローワークが事実確認と是正指導を行うと示しています。報告されている事例は、適性と能力に関係のない事項の質問、そうした事項の書類提出、採用選考開始期日を守らないことです。
最後に — 人材課題を抱える中小企業の経営者様へ
面接での健康の扱いは、気配りの問題として語られがちです。ですが厚生労働省が示すのは、選考のルールと、情報の必要性という判断軸でした。
聞かないと決めることは、後ろ向きな選択ではありません。示す側に回るための入口です。学校から推薦され続け、採った人が3年後も残っている会社にする。DIALOGは作業療法士23年の臨床知見をもとに、そのための健康経営優良法人の取得支援をご提案します。