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健康経営×定着

セルフケア
「自分の不調は自分でわかる」は、教わって初めてできる

著者: 三宮 孝太(作業療法士・株式会社DIALOG代表)

自分の体調は、自分がいちばんわかっている。そう考えるのは、ごく自然なことです。

けれど、急性期医療の現場で患者さんと関わってきた私の実感は、少し違います。

本人は不調を「昨日はたまたま眠れなかった」と、1つずつの出来事として受け止めがちです。積み重なった流れには、本人ほど気づきにくい。臨床の現場で、繰り返し見てきた場面です。

気づく力は、生まれつき備わっているものではありません。教わって初めて使えるようになります。この記事は、その「教わる機会」を扱います。

代表の三宮は、作業療法士として23年間、急性期医療の現場に立ってきました。見続けてきたのは「人が働き続けられる条件」です。株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、その知見をもとに中小企業の採用・定着を支援しています。健康経営と採用設計の両面から手を打つのが、私たちのやり方です。

この記事の要点

前提となる数字: 令和6年の厚生労働省の調査では、過去1年間にメンタルヘルス不調で連続1か月以上休業または退職した労働者がいた事業所は、10〜29人規模で5.7%(うち退職は2.6%)でした(出典は記事末尾)。

セルフケアとは、自分の不調に気づき、対処し、相談できるようにすることです

セルフケアとは、働く人が自分のストレスに気づき、自分で対処することです。厚生労働省の指針は、職場のメンタルヘルス対策を「4つのケア」に分けています。その1つ目がセルフケアです。

指針の解説資料では、働く人が次の3つをできるよう、会社が教育研修や情報提供で支えることが重要だとしています。

指針が挙げるセルフケアの中身

指針の言葉言い換えると
ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解心の不調は誰にでも起こりうる、と知っている
ストレスチェックなどを活用したストレスへの気付き自分の「いつもと違う」を早めに拾える
ストレスへの対処休む・話す・相談する、の手段を持っている

出典:厚生労働省「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」をもとにDIALOG作成

言い換えると、セルフケアは「気合いで乗り切る力」ではありません。たとえると、車の警告灯の読み方と、点いたときの連絡先を、運転を始める前に教わっておくような話です。

指針は、小規模な事業場ではセルフケアとラインによるケアを中心に進めることが望ましいとしています。上司が部下の変化に気づく側は、ラインケアの記事で整理しました。

小さな会社ほど、働く人は「教わっていない」

働く人向けの教育研修・情報提供をしている割合は、会社が小さくなるほど下がります。

対策に取り組む事業所のうち「労働者への教育研修・情報提供」をしている割合(令和6年)

1,000人以上
84.1%
84.1%
100〜299人
47.2%
47.2%
50〜99人
43.6%
43.6%
30〜49人
36.7%
36.7%
10〜29人
33.2%
33.2%

出典:厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況」第2表(メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所=100、複数回答)

しかも、これは「対策に取り組んでいる事業所」の中での割合です。10〜29人の事業所で対策に取り組んでいるのは55.3%でした。単純に掛け合わせると、10〜29人の事業所全体では、およそ5〜6社に1社という計算になります(筆者の試算)。

一方で、不調による休業や退職は、小さな会社でも起きています。

10〜29人の事業所(令和6年・過去1年間)

5.7%
メンタルヘルス不調で1か月以上休業または退職した人がいた事業所
2.6%
うち、退職した人がいた事業所
33.2%
対策に取り組む事業所のうち、働く人への教育研修・情報提供をしている割合

出典:厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況」第1表・第2表

5.7%は小さく見えるかもしれません。けれど10人の会社で1人が抜ければ、戦力の1割です。入社1年目なら、採用にかけた時間と費用も一緒に消えます。

ここまでで覚えてほしい1行。自分の不調に気づく力は、教わる機会がないと育ちにくい。そして小さな会社ほど、その機会が少ない。

入社初日に渡す「セルフケアの3点セット」

いちばん効くのは、入社初日だと考えています。仕事も人間関係も新しくなり、生活のリズムが大きく変わる時期だからです。

入社初日に渡す3点(所要15分)

渡すもの中身役割
① いつもの自分メモ睡眠・食欲・朝の気分の「ふだん」を本人が3行で書く。会社は回収しない気づき
② 休み方の1枚体調が悪い朝の連絡先・連絡手段・連絡の期限と、有給の申請方法対処
③ 相談先カード社内で話せる1人と、社外の相談窓口(こころの耳など)を書いたカード相談

出典:厚生労働省の指針が挙げるセルフケアの3つの要素をもとにDIALOG作成

①のメモは、会社が回収しません。本人が自分の「いつも」を知るための道具だからです。回収すると、中身が「会社に見せる答え」に変わってしまいます。

②は、意外と抜けやすい項目です。体調が悪い朝、誰に、何時までに、電話かメッセージか。決まっていない会社では、新人は休む手前で我慢を選びやすいように感じています。

③の社内の1人は、できれば社長以外にします。評価する人には言いにくいことがあるからです。社外の窓口には、厚生労働省の「こころの耳」のSNS・メール相談が使えます。

50人未満の事業場のストレスチェックは、令和10年4月1日から義務になります。実施体制の整備は別に必要です。そのうえで3点セットは、社員が結果を受け止める土台になります。

この3点が、入社3か月の離職の手前でどう効くか

たとえば、次の流れを仮定してみてください。

入社2か月目、新人の寝つきが悪くなります。本人は「慣れていないだけ」とやり過ごします。相談先は知らず、休む連絡の仕方もあいまいです。そして3か月目に「自分には向いていない」と退職を切り出します。

初日にメモを書いた人なら、「ふだんより眠れていない」と気づくきっかけがあります。相談先カードがあれば、先に誰かに話せます。

入社1か月と3か月の面談では、「初日の『いつも』と比べて、今はどうですか」と1問だけ聞きます。中身を答えてもらう必要はありません。メモを見返すきっかけになれば十分です。

この準備は、採用の場面でも使えます。面接で「入社初日に、相談先と休み方を説明しています」と伝えられるからです。初めて働く人には、内定を承諾する判断材料になりえます。

健康経営優良法人の認定要件とも関係します。入社初日に社内で説明の場を設けることは、2027年度の中小規模法人部門の「管理職または従業員に対する教育機会の設定」に関係する可能性があります。相談先を決めて知らせることは、「心の健康保持・増進に関する取り組み」に関係する可能性があります。要件を満たすかどうかは、申請書の設問でご確認ください。

入社後の受け入れ全体はオンボーディング、先輩をつけるだけで終わらせない育て方はメンター制度の記事で整理しています。

「気づき」だけ教えても、相談先がなければ我慢が長引く

これは私の見立てですが、セルフケアの研修は「気づき」に偏りやすいように感じています。ストレスの仕組みを学び、点数を出して終わる研修です。

急性期医療の現場では、退院の前に「どんな変化が出たら連絡するか」を確かめます。そして、その連絡先をセットで渡すことを大切にしてきました。変化に気づけても、連絡する先がなければ、人は様子を見ることを選ぶからです。

職場も同じ構造ではないでしょうか。気づく力と、動ける先。この2つがそろって、セルフケアは初めて働きます。

そして小さな会社の強みは、この2つを社長が今日決められることです。

もし1つだけ持ち帰るなら

次に入る人のために、社外の相談窓口を1つ書いたカードを、今週つくってみてください。

よくある質問

セルフケアとラインケアは、何が違いますか?

セルフケアは、本人が自分のストレスに気づき、対処することです。ラインケアは、上司が部下の変化に気づき、話を聴き、専門家につなぐことです。小さな会社では両方が要ります。

セルフケアの研修には、外部の講師が必要ですか?

必須ではありません。厚生労働省の「こころの耳」に、新入社員向けの解説や、5分でできるストレスのセルフチェックがあります。入社初日に紹介するところから始められます。

社員の心の状態を、会社が紙で集めてもよいですか?

心の健康に関する情報は、個人情報の保護に特に配慮が必要です。本人の同意なく集めたり共有したりしないことが大切です。本記事で「いつもの自分」の紙を会社が回収しないのは、そのためです。

最後に — 人材課題を抱える中小企業の経営者様へ

自分の不調は自分でわかる。そう思っているのは、社長も新人も同じかもしれません。

けれど、気づく力と相談する先は、教わって初めて使えます。入社初日の15分で、その2つを渡せます。

著者プロフィール

三宮 孝太(株式会社DIALOG代表取締役 / 作業療法士)。作業療法士として23年、急性期医療の現場で「人が働き続けられる条件」を見続けてきました。その臨床知見をもとに、現在は中小企業の採用・定着、健康経営、介護予防の支援に取り組んでいます。

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採用しても、入社して数か月で辞めてしまう会社へ。DIALOGは、人が採れない・辞めてしまう課題を抱える中小企業の採用・定着を支援しています。手段としてご提案しているのが、健康経営優良法人の取得支援です(建設業向けには「ぱとす」による伴走支援も行っています)。ご相談の中では、本記事のような「本人が気づき、相談できる入口をつくる」視点も踏まえてお話を伺います。作業療法士23年の臨床知見をもとに、貴社の業種・現状に合わせて一貫して伴走します。

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参考データ

本記事は、著者(作業療法士歴23年・急性期医療従事)の臨床知見と、公的機関の公開資料を踏まえた解説です。「10〜29人の事業所全体のおよそ5〜6社に1社」は、調査の2つの割合(55.3%×33.2%)を単純に掛け合わせた筆者の試算で、調査が直接示した数字ではありません。記事中の「入社2か月目に寝つきが悪くなり、3か月目に退職を切り出す」経過は説明のための仮定であり、実在の事例ではありません。臨床現場に関する記述は、急性期医療の一般的な実務と著者の所感を述べたもので、特定の個人を指すものではありません。本記事は医学的な診断や治療の助言ではありません。心身の不調がある場合は医療機関にご相談ください。本記事は、採用の成果や離職率の改善、健康経営優良法人の認定取得を保証するものではありません。