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採用×定着

福利厚生
30〜99人の会社の使い道1位は「保険」、大企業は7割を「住居」に

著者: 三宮 孝太(作業療法士・株式会社DIALOG代表)

御社は福利厚生に、社員1人あたり月いくら使っていますか。

すぐに答えられる社長は、そう多くないように感じています。

厚生労働省の調査では、30〜99人の会社の平均は月4,414円でした。1,000人以上の会社は月5,639円です。差は約1,200円です。

それでも「うちは福利厚生が薄い」と感じている社長は多いのではないでしょうか。違いが大きいのは、金額よりも使い道と伝え方です。この記事は、そこを扱います。

代表の三宮は、作業療法士として23年間、急性期医療の現場に立ってきました。見続けてきたのは「人が働き続けられる条件」です。株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、その知見をもとに中小企業の採用・定着を支援しています。健康経営と採用設計の両面から手を打つのが、私たちのやり方です。

この記事の要点

前提となる数字: 令和5年の厚生労働省の調査で、若手正社員の定着対策を行っている事業所に中身を聞いた結果です。「職場環境の充実・福利厚生の充実」を挙げたのは41.2%で、前回から4.6ポイント増えていました(出典は記事末尾)。

福利厚生とは、給与とは別に、会社が社員の生活と健康を支える仕組みです

福利厚生は、2つに分かれます。

1つは法定福利です。健康保険や厚生年金など、法律で会社に負担が決められているものです。もう1つが法定外福利です。住宅や食事の補助など、会社が自分で決めて用意するものです。

言い換えると、法定福利はどの会社にもある「床」です。求人で比べられ、社員が「うちの会社らしさ」を感じるのは、法定外福利のほうです。

常用労働者1人1か月あたりの法定外福利費(令和2年度分)

4,414円
30〜99人の会社
5,639円
1,000人以上の会社
約1,200円
その差(月あたり)

出典:厚生労働省「令和3年就労条件総合調査の概況」第19表(常用労働者30人以上の民営企業が対象)

この調査で福利厚生の費用を調べたのは、令和3年の回が直近です。対象は30人以上の会社です。30人未満の会社は含まれていない点にご注意ください。

小さな会社のお金は、社員の目に届きにくいところに流れている

金額の差は小さくても、使い道はまったく違います。

1,000人以上の会社は、法定外福利費の70.5%が住居です。社宅や家賃補助は、毎月の暮らしで社員が実感できます。求人票にも書きやすい項目です。

ところが30〜99人の会社では、1位が「私的保険制度への拠出金」でした。言い換えると、法律で決められていない保険に、会社が出しているお金です。

30〜99人の会社の法定外福利費、使い道の内訳(構成割合)

私的保険制度への拠出金
23.3%
1,027円
住居
21.8%
960円
食事
19.2%
849円
医療保健
15.0%
660円
労災付加給付
3.6%
159円

出典:厚生労働省「令和3年就労条件総合調査の概況」第19表(1人1か月平均。主な項目のみ抜粋)。1,000人以上の会社では住居が70.5%、私的保険制度への拠出金は2.0%

保険は、何かが起きた日に初めて役に立つものです。労災の上乗せ補償も同じです。2つを合わせると、1人月1,186円。法定外福利費の4分の1を超えます。

これは私の見立てですが、この部分は、社員が日々の働きの中で実感しにくいお金です。会社が説明しなければ、入っていることすら知られていないかもしれません。

社長は毎月お金を出している。社員は「何もない」と感じている。このずれが、「うちは福利厚生が薄い」の正体ではないかと考えています。

ここまでで覚えてほしい1行。小さな会社も福利厚生にお金は出している。足りないのは金額より、社員と応募者に届く形です。

定着に効かせるなら、入社前に「説明できる」ことが先

若手の定着策として、福利厚生に手を打つ事業所は増えています。

令和5年の厚生労働省の調査で、若手正社員の定着対策を行っている事業所に、その中身を聞いた結果があります。「職場環境の充実・福利厚生の充実」を挙げたのは41.2%でした。平成30年の36.6%から増えています。

同じ調査で、挙げた割合がさらに高かった対策があります。「採用前の詳細な説明・情報提供」で、同じく定着対策を行っている事業所のうち58.4%でした。

実施率の高さは、効き目の順位ではありません。それでも私は、制度を増やす前に、あるものを入社前に説明できるようにすることから手をつけるべきだと考えています。

「知らなかった」が、2年目の転職理由になるまで

たとえば、次の流れを仮定してみてください。

会社は社員のために、任意の保険に毎月お金を出しています。けれど求人票にも、入社初日の説明にも出てきません。入社2年目、社員は友人の会社の「昼食補助」や「健診の上乗せ」の話を聞きます。自社には何もないと感じます。

そして面談で「福利厚生が薄い」と言い、転職サイトに登録します。会社が出していたお金は、引き留めに一度も使われないまま終わります。

この経路を断つ場所は、3つあります。求人票、面接、入社初日の説明です。

数える・書く・健康に寄せる、の3手

新しい制度を足すのは、最後で構いません。

福利厚生を「届く形」に直す3手

手順やること届く先
① 数える福利厚生費を、住居・食事・医療保健・保険・慶弔などに分け、1人月いくらかを出す社長(現状の把握)
② 書く社員が使える制度を「誰が・いつ・どう使えるか」の1行ずつにする求人票・面接・入社初日
③ 健康に寄せる次に足すなら、健診の上乗せや昼食の補助など、毎月実感できる健康の支えを選ぶ在籍中の社員・健康経営

出典:厚生労働省「令和3年就労条件総合調査」の法定外福利費の分類をもとにDIALOG作成

①は、決算書の福利厚生費を上の分類で分けるだけです。保険の掛け金が大きい会社は、それが何の保険かを確かめます。

②では、保険も書きます。「業務中のけがに、労災保険の上乗せ補償があります」の1行でも、応募者には判断材料になります。面接で説明し、入社初日にもう一度伝えます。入社初日の準備はセルフケアの記事、求人票の直し方は求人票の記事で整理しています。

③は、健康経営優良法人の認定要件とつながります。2027年度の中小規模法人部門には「食生活の改善」「運動機会の増進」「感染症予防」などの項目があります。このうち4項目以上が求められます(小規模法人特例は2項目以上)。昼食の補助や予防接種の費用補助は、これらの項目に関係する可能性があります。該当するかは、申請書の設問でご確認ください。

認定を取れば、求人票や面接で伝えられる材料が1つ増えます。内定を承諾するかどうかを迷う人に、会社の姿勢を示す根拠になります。

支えは、使い方まで渡して初めて届く

作業療法士の仕事には、生活を助ける道具を患者さんに渡す場面があります。持ちやすい箸や、長い柄のついたブラシのような道具です。

急性期医療の現場で感じてきたのは、道具は渡すだけでは使われにくい、ということでした。どの場面で使うかを一緒に確かめて、初めて生活に入っていきます。

福利厚生も、同じ構造ではないでしょうか。制度があることと、社員が使えることは別です。

そして小さな会社の強みは、社長が社員一人ひとりに直接説明できることです。

もし1つだけ持ち帰るなら

今月の福利厚生費を、1人月いくらか計算してみてください。その数字の中身を、社員に1行で説明できるかを確かめてみてください。

よくある質問

法定福利と法定外福利は、何が違いますか?

法定福利は、健康保険や厚生年金など、法律で会社に負担が義務づけられているものです。法定外福利は、住宅や食事の補助など、会社が任意で用意するものです。求人で差がつくのは法定外福利です。

予算が少ない会社は、どの福利厚生から始めればよいですか?

新しく足す前に、いま出しているお金を数えるところから始めます。すでにある制度を社員と応募者に説明できる形にするだけでも、伝わり方は変わります。足すなら、健康に関わるものが健康経営の取り組みにもつながります。

福利厚生費は、会社の経費にできますか?

税務上の扱いは、制度の中身や対象者によって変わります。本記事では個別の判断はしていません。導入や見直しの前に、顧問税理士にご確認ください。

最後に — 人材課題を抱える中小企業の経営者様へ

うちは福利厚生が薄い。そう感じているなら、まず数えてみてください。

小さな会社も、社員のためにお金を出しています。それを求人票と入社初日に届く形に直すことが、採用と定着の最初の一手になります。

著者プロフィール

三宮 孝太(株式会社DIALOG代表取締役 / 作業療法士)。作業療法士として23年、急性期医療の現場で「人が働き続けられる条件」を見続けてきました。その臨床知見をもとに、現在は中小企業の採用・定着、健康経営、介護予防の支援に取り組んでいます。

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人が採れない、入社しても辞めてしまう会社へ。DIALOGは、人が採れない・辞めてしまう課題を抱える中小企業の採用・定着を支援しています。手段としてご提案しているのが、健康経営優良法人の取得支援です(建設業向けには「ぱとす」による伴走支援も行っています)。ご相談の中では、本記事のような「いまある支えを、社員と応募者に届く形にする」視点も踏まえてお話を伺います。作業療法士23年の臨床知見をもとに、貴社の業種・現状に合わせて一貫して伴走します。

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参考データ

本記事は、著者(作業療法士歴23年・急性期医療従事)の臨床知見と、公的機関の公開資料を踏まえた解説です。法定外福利費の数字は、常用労働者30人以上の民営企業を対象にした令和3年調査(令和2年〈又は令和元会計年度〉分)の平均値で、30人未満の会社は含まれていません。「私的保険制度への拠出金と労災付加給付を合わせて1人月1,186円」は、同表の2項目を筆者が足し合わせた数字です。「社員が実感しにくい」「知られていないかもしれない」は筆者の見立てであり、調査が示したものではありません。記事中の「入社2年目に友人の話を聞き、転職サイトに登録する」経過は説明のための仮定であり、実在の事例ではありません。臨床現場に関する記述は、作業療法の日常的な実務と著者の所感を述べたもので、特定の個人を指すものではありません。税務・社会保険の個別の取り扱いは、顧問税理士・社会保険労務士にご確認ください。本記事は、採用の成果や離職率の改善、健康経営優良法人の認定取得を保証するものではありません。