「去年も乗り切れたから、今年も大丈夫」——5月の社長から、私はこの言葉を何度も聞いてきました。違います。熱中症の運用は、毎年6月までに作り直す仕事です。
北海道の中小建設業でも、改正労働安全衛生規則の熱中症対策義務化は2025年6月から施行され、2026年は本格運用の2シーズン目に入ります。初年度を「とりあえず走り切った」会社ほど、今年は穴が出ます。
株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、作業療法士として23年間、急性期医療の現場で「人が倒れる前に何が起きていたか」を見てきた人間が運営する健康経営支援の会社です。熱中症対策を書類で終わらせず、朝礼の30秒と詰所の壁に溶かし込むところまでが、私たちの提供価値です。
この記事の要点
- 2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則で、事業者には自覚症状報告体制・発見時対応手順・関係者周知の3点が義務化された
- 対象はWBGT28度以上または気温31度以上で連続1時間または1日4時間超の作業。北海道の建設現場でも該当日は出る
- 2シーズン目の今、初年度の「形だけ運用」を実運用に転換することが、社長が6月までに整える論点になる
制度の前提: 改正の根拠は労働安全衛生規則の熱中症対策関係規定(厚生労働省所管、令和7年6月1日施行)。違反は労働安全衛生法上の罰則対象になり得ます(出典は記事末尾)。
2025年6月の改正で、事業者に何が義務化されたか
事業者に新たに課された義務は、大きく3点です(出典:厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」)。第一に、労働者が自分の体調不良や同僚の異変に気づいた時、速やかに事業者に報告できる体制を整備すること。第二に、熱中症の疑いがある労働者を発見した時の対応手順をあらかじめ作成すること。第三に、これらを関係する労働者に周知することです。
対象作業は、WBGT値28度以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間を超えて行うことが見込まれる作業。北海道であっても、7月後半から8月の屋外作業現場では十分に該当する日が出ます。違反は労働安全衛生法に基づく罰則の対象になり得ます。
建設業に固有の意味——朝礼前のWBGTと、午後3時の判断
義務化の本質は「報告書を作ること」ではありません。現場で異変が起きた時、最初の60秒で応急処置と119番判断ができる仕組みを社内に持つことです。
急性期病院で23年、突然倒れて救急車で運ばれてきた働き盛りの人を数多く担当してきて、私はひとつのことに気づきました。熱中症の重症例で運ばれてくる方の多くは、倒れる直前まで本人も周りも「いつもの夏バテ」と思っていたのです。意識障害が出てから救急要請するまでの空白の30分が、後遺症の有無を分けていました。
これは私の見立てですが、建設業の熱中症対策で本当に効くのは、朝礼前のWBGT測定と午後3時の作業判断の2回です。朝のWBGTで休憩頻度を決め、体力が落ち始める午後3時に数値と顔色を見て続行可否を判断する。この2回の意思決定が、書類1枚分の何倍も人を守ります。
ポイント1:自覚症状の報告体制を、朝礼の言葉で言語化する
「めまい・吐き気・頭痛があったら職長に言ってください」と紙に書いてあるだけでは、現場では機能しません。建設業の現場には、自分から不調を申し出ること自体に心理的なハードルがあります。「弱音を吐けない」「迷惑をかけたくない」という空気が、報告を遅らせる。
社長が朝礼で「今日のWBGTは○度。少しでも頭が重いと感じたら、私か職長に一声かけてください。続行か休憩かは、こちらで判断します」と毎朝言い切る。判断の責任を会社が引き取る宣言を、声に出して繰り返す。これだけで報告のハードルは下がります。
ポイント2:発見時対応手順を、A4一枚で詰所に貼る
義務化された「発見時の対応手順」は、立派なマニュアルである必要はありません。むしろ、詰所に貼れるA4一枚に収まる方が機能します。盛り込むのは4点だけ。最初に連絡する相手の名前と電話番号、涼しい場所への移動とクールダウン手順、119番通報の判断基準、家族への連絡担当者です。
119番の判断基準は迷わせない。意識がもうろう、呼びかけに反応が鈍い、自分で水が飲めない——このうち1つでも当てはまれば、その場で通報。これを6月の朝礼で全員に読み合わせます。
ポイント3:関係者への周知を、6月の安全大会と紐付ける
7月1日からの全国安全週間に向けて、6月は準備期間として安全大会が制度化されています。この期間に、熱中症対応手順の読み合わせを必ず組み込む。新人・期間雇用の作業員にも漏れなく伝わるよう、6月の最終週までに全員のサインを集めるのが現実的です。
北海道の建設業は5月のGW明けから本格稼働に入りますが、熱中症リスクが本格化するのは7月以降。6月のこの時期に初年度の運用を点検し、抜けていた部分を補修する。これが2シーズン目の社長の仕事です。
6月までに整える項目(A4一枚にまとめる)
- 自覚症状報告の社内ルール:誰に・どんな言葉で・何分以内に言うかを明文化
- 発見時対応手順A4一枚:連絡先・クールダウン手順・119番判断基準・家族連絡担当
- WBGT測定の2回ルール:朝礼時と午後3時に各現場で測定・記録
- 関係者周知の記録:6月の安全大会で読み合わせ・全員サインを集める
- シーズン後の振り返り:9月末に「効いた点・効かなかった点」を1ページで残す
※WBGT測定器は1現場1台が基本。環境省「熱中症予防情報サイト」の地域別予測値と併用すると朝の判断が早まります。
もし1つだけ持ち帰るなら
熱中症対策は「マニュアル作成」ではなく「最初の60秒の動き」を社内に作る仕事です。A4一枚の発見時対応手順を詰所に貼り、6月の安全大会で読み合わせ、朝礼前と午後3時のWBGT測定を運用に乗せる。この3点を6月までに整えれば、義務遵守と労災予防が同時に進みます。
最後に — 中小建設業の社長へ
WBGT測定器の数値1つ、A4一枚の手順書1枚が、本人と家族と会社を同時に守る場面が、いつ来るかは誰にも分かりません。だからこそ運用は6月のうちに朝礼の30秒と詰所の壁に溶かしておく。これが23年急性期病院で「もう少し早く気づけていれば」を見続けてきた人間としての結論です。
DIALOGは、急性期医療23年の臨床知見と労働安全衛生・健康経営の最新制度の理解の両方を持って、北海道の中小建設業の熱中症対策を朝礼と詰所の運用に組み込むところから貴社に伴走します。書類整備で終わらせず、シーズン後の振り返りまで含む仕組みをご提案します。