9月は、国が「総点検をしてください」と名指ししている1か月です。
全国労働衛生週間は10月1日から7日まで。カレンダーに乗るのはこの7日間だけで、9月は何もない月として過ぎていきます。その間、健診で所見が出た社員の記録は止まったままです。
ところが、手を動かす中身は9月のほうに置かれています。厚生労働省の実施要綱では、9月1日から30日が準備期間と定められ、日常の労働衛生活動の総点検を行う期間と位置づけられています。10月に並ぶのは、職場巡視や掲示といった仕上げの行事です。
株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、中小企業の採用・定着を、健康経営と採用設計の両面から支援しています。作業療法士として23年間、急性期医療の現場で「人が働き続けられる条件」を見てきた知見が土台です。本稿では、9月の総点検で何を見るのかを、公表資料に沿って整理します。
この記事の要点
- 本週間は10月1〜7日。ただし総点検を求められているのは9月1〜30日の準備期間
- 令和7年の定期健康診断で所見のあった人は全国59.7%、建設業65.1%。半数を超えている
- 9月に絞るなら、今夏の熱中症対策の確認・健診結果のその後・小規模事業場向けの無料窓口の3つ
今年の位置づけ: 令和8年度は第77回。スローガンは「ひとりひとりが貴重な人材 心も体も健やかに みんな生き生き健康職場」です。出典は記事末尾。
点検の前に見ておきたい3つの数字
出典:厚生労働省「定期健康診断実施結果(令和7年)」/厚生労働省「令和7年度 過労死等の労災補償状況」
動くのは10月ではなく、9月
この週間の本体は、行事ではなく点検です。
主唱は厚生労働省と中央労働災害防止協会、協賛は建設業労働災害防止協会など4団体です。
7月の全国安全週間とは、扱う中身が違います。安全週間は労働災害の防止、労働衛生週間は働く人の健康管理と職場環境です。けがを防ぐ話と、体調や病気の話は別に置かれています。
| 期間 | 位置づけ | 実施要綱に書かれている中身 |
|---|---|---|
| 9月1日〜30日 | 準備期間 /健康診断実施強化月間 | 重点事項をはじめとした、日常の労働衛生活動の総点検 |
| 10月1日〜7日 | 本週間 | 職場巡視、労働衛生旗の掲揚とスローガン掲示、優良職場の表彰、緊急時を想定した実地訓練、講習会 |
9月には、もう1つ名前があります。要綱は9月1日から30日を「職場の健康診断実施強化月間」とし、健診の実施と事後措置の徹底を挙げています。9月は、健診の月でもあります。
順番を入れ替えると、10月にポスターだけが貼られます。点検が先で、掲示は後です。10月に増やすことはありません。9月の点検で出た穴を、朝礼1回と掲示1枚で全員に共有する。中小企業の規模なら、そこまでで足ります。
9月の総点検、まず3つに絞る
令和8年度の重点事項は12項目。中小企業が1か月で全部を回すのは、現実的ではありません。
1. この夏の熱中症対策の答え合わせ
今年の要綱には、「本年夏季に実施した各熱中症予防対策の取組に関する確認」という項目が入っています。夏が終わった9月に、終わったばかりの実績を見直す、という指定です。
改正労働安全衛生規則では、熱中症のおそれがある作業者を早期に見つけるための連絡体制の整備などが定められています。事業者の措置義務です。整えた体制が、この夏に実際に使われたかどうか。一度も使われなかったのなら、現場に届いていなかった可能性があります(熱中症の現場運用)。
2. 健康診断の「その後」
令和7年の定期健康診断で、所見のあった人の割合は全国で59.7%でした。業種別では建設業65.1%、運輸交通業66.2%と、全国平均を上回ります。
問われるのは受診率ではなく、受診したあとです。要綱は、異常所見のある人について医師の意見を聴き、事後措置まで行うことを求めています。
9月に見るのは1点で足ります。前年度の健診で要再検査だった人が、その後どうなったか。記録で追えなければ、そこが穴です。この追跡の作り方は健診の事後措置(事後措置の運用)で整理しています。
3. 産業医がいない会社が使える、無料の窓口
労働者数50人未満の事業場には、産業医の選任義務がありません。言い換えると、社内に健康の相談先がない状態が、制度上そのまま認められています。
この層のために、労働者健康安全機構が全国に地域産業保健センターを置いています。対象は50人未満の事業場です。健診結果に基づく医師の相談、長時間労働者への面接指導、医師等による職場訪問などを、原則無料で提供しています。
窓口は都道府県ごとに置かれ、各地の産業保健総合支援センターから探せます。要綱でも「小規模事業場における産業保健活動の充実」は重点事項です。使われていない制度は、無いのと同じです。
今年は「個人事業者等の安全衛生の確保」も並びます。一人親方に現場へ入ってもらう会社には、健診や安全衛生教育の情報提供が、注文者等の実施事項として示されています(一人親方と元請の責任)。
| 点検の対象 | 9月に確かめる問い | 見るもの |
|---|---|---|
| 熱中症対策 | この夏、決めた連絡体制は実際に動いたか | 今夏の報告記録の有無 |
| 健診の事後措置 | 前年度の要再検査者は、その後受診したか | 健診結果と受診記録の突合 |
| 外部資源 | 50人未満なら、地域産業保健センターを使っているか | 相談・訪問指導の利用実績 |
ここまでの整理
9月にやるのは、新しい施策づくりではありません。この1年に決めたことが、実際に動いたかどうかの確認です。新しい取り組みを増やすのは、穴が見えたあとで足ります。
「衛生」の点検が、人が辞めない会社の条件になる
休職に入った人が戻る経路を持たない会社では、休むことがそのまま退職になります。
数字も動いています。令和7年度の精神障害の労災請求件数は4,958件で、前年度から1,178件増えました。要綱の背景説明でも、一般健康診断の有所見率の上昇と、疾病を抱えながら働く人の増加が挙げられています。
今年の重点事項には、女性の健康課題への対応と、治療と就業の両立支援も並びました。どちらも「今いる人が働き続けられるか」に直結します(治療と仕事の両立支援)。
急性期医療の現場で23年、病気やけがの直後の方を見てきました。そこで感じてきたのは、仕事に戻れるかどうかを分けるのは、倒れたあとの努力量だけではない、ということです。
倒れる前に所見が拾われていたか。休むと言い出せる関係があったか。戻る場所の作業を調整できるか。この3つが揃っている方ほど、戻りやすい傾向があるように感じています。
健康経営優良法人が評価するのも、この健診の事後措置と相談体制です。9月の総点検で見るのは、まさにこの3つの手前です。健診の所見が拾われているか。相談の窓口があるか。作業を変える余地があるか。人を入れる前にここが空いていると、採用にかけた費用は定着の前に流出します。求人広告を出す前に確かめる価値があると考えています。
もし1つだけ持ち帰るなら
今月中に、この1問へ記録を見て答えられるか試してみてください。「前年度の健診で要再検査だった人は、その後どうなりましたか」。答えられない場合、そこが最初の点検箇所です。
よくある質問
Q. 全国労働衛生週間はいつですか。準備期間はありますか?
A. 本週間は10月1日から7日までです。あわせて9月1日から30日が準備期間と定められています。厚生労働省の実施要綱は、準備期間に日常の労働衛生活動の総点検を行うことを求めています。
Q. 全国安全週間との違いは何ですか?
A. 全国安全週間は7月に実施され、労働災害の防止を扱います。全国労働衛生週間は10月に実施され、働く人の健康管理と職場環境を扱います。けがを防ぐ取り組みと、体調や病気への取り組みが分けて置かれています。
Q. 従業員50人未満の会社も取り組む必要がありますか?
A. 実施要綱は実施者を各事業場と定めており、規模による除外はありません。小規模事業場における産業保健活動の充実も、重点事項の一つです。
Q. 9月に1つだけ選ぶとしたら、何から手をつければよいですか?
A. 前年度の健康診断で要再検査となった方が、その後受診したかどうかの確認をおすすめします。令和7年の定期健康診断では、所見のあった人の割合が全国で59.7%、建設業で65.1%でした。記録で追えるかどうかが分かれ目です。
Q. 産業医がいない会社は、健康相談をどこにすればよいですか?
A. 労働者健康安全機構が全国に置く地域産業保健センターをご利用ください。労働者数50人未満の事業場が対象です。健康診断結果に基づく医師の相談、長時間労働者への面接指導、医師等による職場訪問を原則無料で提供しています。
最後に — 人材課題を抱える中小企業の経営者様へ
9月は、新しい制度を入れる月ではありません。この1年に決めたことが動いたかを、記録で確かめる月です。
点検で出てくる穴は、たいてい仕組みの穴です。健診の結果が誰の手元にも残らない。相談先が決まっていない。どれも、人の頑張りでは埋まりません。
DIALOGは作業療法士23年の知見をもとに、貴社の点検結果を採用・定着につながる仕組みに落とし込むご提案をします。