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採用×定着

長時間労働
80時間を超えた社員の8割は、医師の面接指導を受けていない

著者: 三宮 孝太(作業療法士・株式会社DIALOG代表)

先月、時間外と休日の労働が80時間を超えた社員は、御社に何人いましたか。

私の見立てでは、名前ですぐに挙がる会社は、そう多くないのではないでしょうか。

厚生労働省の令和6年の調査では、過去1年に1か月80時間を超えた月があった労働者は、全体の1.5%でした。その人たちに、医師の面接指導を受けたかを聞いています。

80時間を超えたすべての月で受けた人は12.6%。いくつかの月だけ受けた人は8.0%。受けなかった人は79.5%でした。

ただし、面接指導は本人の申出があって初めて行うものです。8割が受けていないことは、そのまま会社の落ち度を意味しません。問われているのは、申出を言い出せる状態を、会社がつくれているかどうかです。この記事は、そこを扱います。

代表の三宮は、作業療法士として23年間、急性期医療の現場に立ってきました。見続けてきたのは「人が働き続けられる条件」です。株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、その知見をもとに中小企業の採用・定着を支援しています。健康経営と採用設計の両面から手を打つのが、私たちのやり方です。

この記事の要点

長時間労働の事後対応とは、80時間を超えた人を見つけて、医師につなぐ仕組みです

労働安全衛生法は、長時間労働で疲れがたまった人の病気を防ぐため、医師の面接指導を定めています。会社がやることは3段です。

  1. 労働時間の状況を、タイムカードやパソコンの使用記録など、客観的な方法で把握します。記録は3年間保存します。
  2. 時間外・休日労働が月80時間を超えた本人に、超えた時間を速やかに通知します。給与明細にその時間数が載っていれば、通知として差し支えありません。
  3. 80時間を超え、疲労の蓄積が認められる本人が申し出たら、医師の面接指導を行います。

言い換えると、数える、知らせる、申し出があれば医師につなぐ、の3段です。産業医がいる事業場は、80時間を超えた人の氏名と時間を産業医にも伝えます。

面接指導は、50人未満の事業場にも適用されます。50人未満で産業医がいない会社は、産業保健総合支援センターの地域窓口で、面接指導の相談を原則無料で受けられます。

すでに50人以上で産業医が決まっていない会社は、選任が先です。探し方は所轄の労働基準監督署か産業保健総合支援センターへ。ここから先は、仕組みを動かす側の話です。

80時間を超えた人の8割は、面接指導を受けていませんでした

1か月80時間超の時間外・休日労働と、医師の面接指導(令和6年調査)

1.5%
80時間を超えた月があった労働者(全労働者を母数)
12.6%
すべての月で面接指導を受けた(その労働者を母数)
79.5%
面接指導を受けなかった(同上)

出典:厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)の概況」第20表。残りの8.0%はいくつかの月だけ受けた人。派遣労働者を除く

前回の令和5年調査では、すべての月で受けた人は6.1%、受けなかった人は92.2%でした。受ける人は増えていますが、標本調査のため誤差を含みます。それでも、8割です。

80時間を超えたすべての月で面接指導を受けた人の割合(年齢別)

20〜29歳
29.2%
29.2%
30〜39歳
26.9%
26.9%
40〜49歳
14.6%
14.6%
50〜59歳
5.4%
5.4%

出典:厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)の概況」第20表(60歳以上は調査対象数が少ないため掲載しない)

年齢別は少人数の集計のため、傾向として読んでください。

「受けなかった」には、疲れがたまっていなかった人も、申し出なかった人も、案内がなかった人も含まれます。中身は調査から読み取れません。

これは私の見立てですが、申出制は、続けたい人ほど手を挙げにくい設計ではないでしょうか。急性期医療の現場で、続けたい気持ちがあるのに「職場に迷惑をかけたくない」が先に立つ人を、何人も見てきました。

ここまでで覚えてほしい1行。面接指導は、疲れた本人が手を挙げて初めて動きます。会社ができるのは、手を挙げやすい入口を先につくることです。

手前で止まった疲れは、定着の問題として戻ってきます

厚生労働省の令和5年の調査で、若手が初めて勤務した会社をやめた理由の1位は「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」で28.5%でした。人間関係は26.4%、賃金は21.8%です。休日の側の話は年間休日の記事で整理しました。

ここに、健康経営優良法人2027(中小規模法人部門)の項目⑭がつながります。名前は「長時間労働の予防と事後対応」で、⑪から⑰のうち4項目以上を満たす中の1つです。

認定事務局が経済産業省の検討会に示した資料では、中小規模法人部門は予防と事後対応の「いずれか」で適合と示されています。ただし、来年度(令和9年度の認定の見込み)からは両方とする旨も、括弧書きで示されています。この資料の認定要件は「案」の段階です。予防は労働時間の適正化、事後対応は長時間労働者への取り組みです。最終の設問は申請書でご確認ください。

項目⑭は、今年度は片方で適合と示されています。ただ、両方になる場合に備えると、80時間を超えた人への通知と面接指導への入口も要ります。

月80時間を超えた社員が、半年後に辞めるまで

先ほどの統計は、初めての会社への不満です。疲れがたまって休職に至る経路とは理由が別ですが、どちらも働き方の負担に関わる話だと考えています。

たとえば、次の流れを仮定してみてください。

繁忙期に、ある社員の時間外が月80時間を超えます。給与明細には時間数が載りますが、面接指導の案内はありません。社員は疲れていても、忙しい職場で申し出るのをためらいます。

繁忙期が終わっても疲れは抜けません。半年後に遅刻と欠勤が増え、休職に入ります。復帰の見通しが立たないまま、退職します。

この経路は、入社前と入社後の2か所で断てます。

入社前は、求人票と面接です。ハローワークの求人票には「時間外労働時間」の欄があり、応募者が会社を比べる材料になります。数字に加えて、80時間を超えたときに会社が何をするかを話せると、内定を迷う人が安心して決められるのではないでしょうか。

入社後は、下の表の①②と、3か月の面談です。先月の残業時間と休めた日数を1問で聞きます。

数える・届ける・話す、の3手

新しい仕組みは要りません。いまの給与計算と面談に、3つを足します。

長時間労働の事後対応を、定着につなげる3手

手順やること届く先
① 数える毎月1回、期日を決めて、時間外・休日労働が80時間を超えた人を氏名で洗い出す。80時間に近づいた人も同じ表に載せる社長・総務(把握)
② 届ける給与明細の時間数に加えて、80時間を超えた人には一言添える。「面接指導を申し出られます。窓口は○○です」本人(申出の入口)
③ 話す求人票の時間外労働の欄と、面接での説明をそろえる。入社後3か月の面談で「先月の残業と休めた日数」を1問聞く応募者・入社3か月目の社員

出典:厚生労働省「働き方改革関連法解説(労働安全衛生法/産業医・産業保健機能の強化関係)」をもとにDIALOG作成

①は、締め日の翌営業日に作る1枚の表で足ります。80時間は面接指導の起点であり、時間外労働の上限ではありません。上限規制や割増賃金の計算は、顧問の社会保険労務士へ。DIALOGが扱うのは、誰に、いつ、何を伝えるかです。

②は申出の入口づくりです。案内を併せて伝えることが望まれる、と厚生労働省の解説にあります。

③は、採用と定着の両方の土台になる一手です。事後対応を動かしていること自体が、求人票と面接で話せる材料になります。

渡すだけでは動かず、使い方まで渡して初めて届く

急性期医療の現場では、患者さんの疲れを数字だけで判断しません。「今日はどうですか」と聞いて、初めて本当の状態が分かります。

長時間労働の通知も同じではないでしょうか。時間数を渡すだけでは、人は動きません。申し出てよいと伝わって初めて、制度が使える状態になります。

もし1つだけ持ち帰るなら

先月、時間外と休日の労働が80時間を超えた社員がいたか、氏名で確かめてみてください。いた場合は、その人に面接指導のことを伝えたか、思い出してみてください。

よくある質問

月80時間を超えたら、必ず医師の面接指導を受けさせなければなりませんか?

対象は、時間外・休日労働が月80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる人が申し出たときです。会社には、本人への通知と、申出があったときの実施が求められます。例外もあるため、詳しくは所轄の労働基準監督署にご確認ください。

従業員が50人未満の会社は、どうすればよいですか?

50人未満の事業場にも適用されます。産業保健総合支援センターの地域窓口(地域産業保健センター)で、面接指導の相談を原則無料で受けられます。事前の申込みが必要です。

最後に — 人材課題を抱える中小企業の経営者様へ

忙しい月ほど、人は疲れたと言い出しにくくなります。言い出せる入口を先に決めておくことが、会社の役目です。数え、届け、話す。この3手が、採用と定着の土台になります。

著者プロフィール

三宮 孝太(株式会社DIALOG代表取締役 / 作業療法士)。作業療法士として23年、急性期医療の現場で「人が働き続けられる条件」を見続けてきました。その臨床知見をもとに、現在は中小企業の採用・定着、健康経営、介護予防の支援に取り組んでいます。

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人が採れない、入社しても辞めてしまう会社へ。DIALOGは、人が採れない・辞めてしまう課題を抱える中小企業の採用・定着を支援しています。手段としてご提案しているのが、健康経営優良法人の取得支援です(建設業向けには「ぱとす」による伴走支援も行っています)。ご相談では、80時間に近い人の洗い出し表と、求人票の時間外欄との整合を一緒に確認します。作業療法士23年の臨床知見をもとに、貴社の業種・現状に合わせて一貫して伴走します。

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参考データ

本記事は、著者(作業療法士歴23年・急性期医療従事)の臨床知見と、公的機関の公開資料を踏まえた解説です。令和6年労働安全衛生調査の数字は、事業所が抽出した労働者本人が回答した標本調査(有効回答8,596人)の結果で、80時間を超えた月があった労働者は全体の1.5%と少数のため、年齢別の割合は参考値です。「面接指導を受けなかった」には、疲労の蓄積が認められなかった人、申し出なかった人、会社から案内がなかった人などが含まれ、会社の法令違反の割合を示すものではありません。「続けたい人ほど手を挙げにくい」は筆者の見立てであり、調査が示したものではありません。項目⑭の「来年度から両方」は、令和8年7月の経済産業省の検討会に示された資料の記載で、最終の認定要件・申請書の設問は認定事務局の公表資料でご確認ください。記事中の「繁忙期に80時間を超えた社員が半年後に退職する」経過は説明のための仮定であり、実在の事例ではありません。臨床現場に関する記述は、著者の所感を述べたもので、特定の個人を指すものではありません。時間外労働の上限規制・割増賃金・労働時間の把握方法など個別の取り扱いは、社会保険労務士・所轄の労働基準監督署にご確認ください。本記事は、採用の成果や離職率の改善、健康経営優良法人の認定取得を保証するものではありません。