急性期病院のリハビリでは、訓練を始める前に、欠かさずやることが1つあります。何だと思いますか。
初期評価です。いまどこまで動けるかを測り、記録に残します。
最初の記録がなければ、良くなったのか悪くなったのか、後から誰にも分かりません。
会社にも、同じ位置にある仕事があります。社員を雇い入れたときの健康診断、雇入れ時健康診断です。受けてもらい、結果の紙をファイルに綴じて終わる。そんな運用になっていないでしょうか。
実は、健診を受けた日から、法令上の「3か月」が動いています。結果の紙が届くまでの数週間も、その中に入ります。この記事は、その3か月を定着に使う話です。
代表の三宮は、作業療法士として23年間、急性期医療の現場に立ってきました。見続けてきたのは「人が働き続けられる条件」です。株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、その知見をもとに中小企業の採用・定着を支援しています。健康経営と採用設計の両面から手を打つのが、私たちのやり方です。
この記事の要点
- 雇入れ時健康診断は、常時使用する人を雇い入れるときの会社の義務。11項目あり、定期健診と違って項目の省略は認められない
- 所見がある人は、原則として健診の日から3か月以内に医師の意見を聴き、個人票に書く。50人未満の事業場は地域産業保健センターを原則無料で使える
- この3か月を、入社1か月・3か月の面談と同じ暦に載せると、配置と定着の土台になる
雇入れ時健康診断とは、入社した人の「最初の記録」をとる健診です
労働安全衛生規則第43条は、常時使用する労働者を雇い入れるとき、医師による健康診断を行うよう会社に義務づけています。
「常時使用する労働者」には、パートも入ります。契約期間が1年以上(見込みを含む)で、週の所定労働時間が同じ仕事の正社員の4分の3以上の人です。
項目は次の11です。
- 既往歴・業務歴の調査、自覚症状と他覚症状の有無
- 身長・体重・腹囲・視力・聴力、胸部エックス線、血圧
- 貧血、肝機能、血中脂質、血糖、尿、心電図
定期健康診断は、医師の判断で項目を省けます。ところが、雇入れ時の健康診断では項目の省略は認められません。
例外は1つです。入社前3か月以内に受けた健診の結果を、本人が書面で出した場合です。その健診と重なる項目は、受け直さなくて構いません。
言い換えると、入社の時点で11項目がそろった記録を、1人に1枚つくる仕組みです。リハビリの初期評価と同じで、1年後の定期健診と並べて初めて、変化が読めます。
なお、この健診は採用の合否を決める道具ではありません。選考時の健康の扱いは採用面接と健康の記事で整理しました。この記事は、入社が決まった後の話です。
健診の日から、医師の意見を聴く「3か月」が始まっています
健診で所見があった人について、会社は医師の意見を聴かなければなりません(労働安全衛生法第66条の4)。
期限も決まっています。労働安全衛生規則第51条の2により、原則として健診が行われた日から3か月以内です。聴いた意見は、健康診断個人票に書き込みます。
雇入れ時健康診断で押さえる3つの数字
出典:労働安全衛生規則第43条・第51条の2、栃木労働局「雇入時の健康診断・定期健康診断」、群馬労働局「定期健康診断実施結果(令和6年)」。59.4%は50人以上の事業場が報告した定期健診の集計で、雇入れ時健診の数字ではない
医師に求める意見は、主に就業区分です。「通常勤務」「就業制限」「要休業」の3つに分けます。就業制限には、時間外労働の制限や作業の転換、深夜業の回数を減らすことなどが入ります。
定期健診では、受診者の59.4%に所見がありました。新しく入った人にも、所見のある人はいると考えるのが自然です。
ここで見落としやすい点があります。一般の健康診断で監督署への報告が求められているのは、50人以上の事業場の定期健康診断です。雇入れ時の健診は、その報告の対象に入っていません。
これは私の見立てですが、外から見られない書類ほど、引き出しにしまわれやすいのではないでしょうか。
50人未満の事業場は、地域産業保健センターで医師の意見聴取を原則無料で受けられます。事前の申込みが必要で、北海道にも窓口があります。
ここまでで覚えてほしい1行。雇入れ時健診は、受けさせた日ではなく、医師の意見を個人票に書いた日に仕事が終わります。
所見のある新人が、3か月で辞めるまで
意見聴取を飛ばした場合を、仮定してみてください。
ある新入社員の雇入れ時健診で、血圧が高めと出ます。結果は本人に届き、会社は個人票を綴じます。医師の意見は聴かれず、配置も残業も、ほかの新人と同じです。
慣れない仕事に、繁忙期の残業が重なります。本人は体のことを言い出しません。2か月目に欠勤が増え、3か月目に「体力的に向いていない」と退職を申し出ます。
急性期医療の現場で、私は「もう続けられない」と仕事を離れる人を何人も見てきました。続けたくないわけではないのに、です。職場に迷惑をかける怖さが、続けたい気持ちより先に立つのです。受け入れる側に調整の余地があれば、続ける道を選ぶ人は増えるように感じています。
この経路は、2か所で断てます。
1つ目は内定時です。労働条件通知書を渡すときに、ひと言添えます。「入社時の健診の結果は、医師の意見を聞いて、働き方と配置を決めるために使います」。持病を伝えたら不利になるのでは、と迷う人が、安心して内定を承諾しやすくなります。
2つ目は入社後です。意見聴取の期限である3か月と、入社1か月・3か月の面談を、同じ暦に載せます。試用期間を置いている会社なら、その見極めの時期とも重なります。見極めの考え方は試用期間の記事で扱いました。
健康経営優良法人2027(中小規模法人部門)の認定要件にも、つながる項目があります。「健康課題の把握」の②受診勧奨の取り組みです。①〜③のうち2項目以上を満たす形の1つです。雇入れ時健診で要再検査と出た人に受診を勧める流れは、②の取り組みを考える材料になります。設問の中身は申請書でご確認ください。
受け取る・聴く・話す、の3手
入社手続きと面談に、3つを足します。
雇入れ時健康診断を、定着につなげる3手
| 手順 | やること | 期限・時期 |
|---|---|---|
| ① 受け取る | 健診の日を入社台帳に書き、3か月後の日付を並べて書く。本人が持参した結果は、3か月以内の健診か、11項目がそろっているかを確かめる。持参した結果の場合の期限の数え方は、所轄の労働基準監督署に確認しておく | 入社手続きの日 |
| ② 聴く | 所見がある人は、医師の意見を個人票の意見欄に書いてもらう。50人未満は地域産業保健センターに申し込む。就業区分を配置と残業の決め方に反映する | 健診の日から3か月以内 |
| ③ 話す | 入社1か月の面談で、結果を受け取ったか、再検査の予定があるかを聞く。3か月の面談で「体の負担で困っていることはないか」を1問聞く | 入社1か月・3か月 |
出典:労働安全衛生法第66条の4〜第66条の6、労働安全衛生規則第43条・第51条の2、宮城産業保健総合支援センター「事業主の皆様へ(意見聴取)」をもとにDIALOG作成
②で医師を探すのは、会社の役目です。50人以上で産業医が決まっていない会社は、選任が先になります。探し方は所轄の労働基準監督署か産業保健総合支援センターへ。DIALOGが扱うのは、意見を配置と面談にどうつなぐかです。
③では、健診の数値そのものは聞きません。結果を見る人は、社長と担当者に絞っておきます。
最初の記録があって、初めて変化が見える
リハビリの初期評価は、できないことを探すためのものではありません。どこから始めれば無理なく進めるかを決めるための記録です。
雇入れ時健診も、同じ使い方ができるのではないでしょうか。入社時の1枚があれば、1年後の定期健診で変化に気づけます。
もし1つだけ持ち帰るなら
この1年に入社した人の、雇入れ時健診の個人票を開いてみてください。所見のある人の医師の意見欄が埋まっているか、確かめるところからです。
よくある質問
入社前に受けた健診の結果で、代わりにできますか?
入社前3か月以内に受けた医師の健診で、本人が結果の書面を出した場合は、重なる項目を受け直さなくて構いません。足りない項目があれば、その項目は受けてもらいます。
パートやアルバイトも対象ですか?
契約期間が1年以上(見込みを含む)で、週の所定労働時間が正社員の4分の3以上なら対象です。4分の3未満でも、おおむね2分の1以上なら実施が望ましいと労働局の資料にあります。
検査項目は、今後変わりますか?
厚生労働省のリーフレット(2026年4月版)では、令和9年4月1日から血清クレアチニン検査を加えた項目が示されています。最新の内容は、所轄の労働基準監督署でご確認ください。
最後に — 人材課題を抱える中小企業の経営者様へ
50人未満で産業医のいない会社ほど、この期限は誰にも言われません。入社した人が最初に会社へ出す健康の記録は、雇入れ時健診の1枚です。受け取り、医師の意見を聴き、面談で話す。この3か月の使い方が、辞めずに働き続けられる配置の出発点になります。