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健康診断・事後措置・安全配慮義務

健診はやっている、では結果は
有所見者を放置する建設業のリスク

著者: 三宮 孝太(作業療法士・株式会社DIALOG代表)

「健康診断は毎年ちゃんと受けさせている。だから、うちは健康管理はやっている方だ」——北海道の中小建設業の社長から、こうしたお話をうかがう機会が増えてきました。実施していること自体は、間違いなく前向きな一歩です。

株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、作業療法士として23年間、医療と介護の現場で「人が働き続けられる条件」を見続けてきた知見をもとに、北海道の中小建設業に向けた健康経営支援を提供しています。健康診断という制度の要件と、現場で実際に体が動かなくなっていく過程の両方から、見落とされがちな「実施したあと」を実務に乗せていくのが私たちの役割です。

本記事では、健康診断を「実施して終わり」にしているときに会社が負うリスクを、安全衛生の制度資料と臨床で見てきた現実の両面から整理します。読み終えたあとに、社長が「来週、まずこれを数えよう」と判断できる材料をお渡しすることが目標です。

この記事の要点

制度の前提: 健康診断の実施・事後措置は労働安全衛生法が規定。有所見率は厚生労働省「定期健康診断結果報告」で公表(出典は記事末尾)。

この記事で扱うこと

「実施して終わり」が、なぜ会社のリスクになるのか

厚生労働省「定期健康診断結果報告」によると、建設業の有所見率は近年6割を超える水準で推移しており、令和6年の集計では建設業65.1%、全産業平均59.4%でした(出典は記事末尾)。つまり、健康診断を受けた建設業の従業員のうち、3人に2人近くが何らかの所見ありと判定されている計算になります。

この数字が意味するのは、「有所見は一部の例外ではなく、現場の標準的な状態に近い」ということです。実施だけで止めると、その大多数の所見が、誰の判断も通らないまま現場に戻っていきます。これは、会社が把握できたはずのリスクを、把握しないと選んだ状態に近いと考えています。

言い換えると、健康診断は「受けさせること」がゴールではなく、「結果を見て、必要な人に手を打つこと」までが一連の流れです。前半だけで止まっている会社は、後半の義務とリスクを抱えたまま走っていることになります。

安衛法が求めているのは「実施のあと」まで

労働安全衛生法は、健康診断の実施だけでなく、その後の対応までを事業者の義務として定めています。流れを大づかみに並べると、次のようになります。

健康診断の「実施のあと」に法が求めること

  1. 結果の記録——健康診断個人票の作成・保存(安衛法第66条の3)
  2. 本人への通知——結果を労働者に通知する(第66条の6)
  3. 保健指導——所見のある人への保健指導の努力義務(第66条の7)
  4. 医師等からの意見聴取——異常所見者について医師の意見を聴く(第66条の4)
  5. 就業上の措置——意見を勘案し、作業転換・労働時間短縮・深夜業の回数減少等を講じる(第66条の5)

※具体的な運用・様式は通達等で定められています。詳細は厚生労働省の公表資料で必ずご確認ください。

とりわけ第66条の4と第66条の5は、「異常の所見がある人を、そのまま同じ働き方で戻してよいかを医師の目を通して判断し、必要なら働き方を調整する」という、リスク管理の中核にあたる部分です。ここを通さずに有所見者を現場に戻し、その後に重大な健康起因の事故が起きた場合、会社が安全配慮義務をどう果たしていたかが問われることになります。

この義務は、産業医がいない50人未満の会社にも実質的に及びます。意見聴取の相手がいないことは、措置を行わない理由にはなりません。地域産業保健センターの無料サービスを使う、という現実的な選択肢が用意されています。

有所見の放置が、なぜ静かに効いてくるのか

制度上のリスクと並んで、もう一つお伝えしたい視点があります。23年の臨床経験で培った視点では、身体機能の低下は、本人が「もう限界だ」と自覚するより前に進んでいきます。最初に落ちるのは筋力や体力ではなく、その人が毎日繰り返している動作に応じた、局所的な柔軟性や可動性です。建設業のように特定の動作を反復する仕事では、この進み方が職務に沿って現れます。

さらに、人が仕事を続けられなくなる転換点は、心理的な決断ではなく、動けなくなって現場に来られなくなるという物理的な事実が先に来るパターンが多いと感じています。本人が「辞めよう」と判断する前に、身体が先に決めてしまう。だからこそ、有所見という「まだ動けている段階のサイン」を放置せず、動けるうちに手を打てるかどうかが、選べる手の幅を大きく左右します。

有所見者リストを医師の目に通すことは、書類上の義務であると同時に、ベテランの離脱や若手の不安が表面化する前に、会社が動ける最後のタイミングを確保する作業でもあると考えています。

建設業が事後措置で躓きやすい3つのポイント

事後措置のお話を社長の方とすると、決まって出てくる3つの悩みがあります。

1つ目は、再検査の案内を出しても本人が動かないこと。遠方の現場に出ていて病院に行く時間が取れない、結果を知るのが怖い、といった事情が重なっていることが多い領域です。会社として受診の時間と費用の枠組みを先に用意し、案内を「個人任せ」にしないことが、最初のつまずきを減らす一歩になります。

2つ目は、医師の意見聴取をどう手配すればよいか分からないこと。産業医契約がない会社では、ここで止まりがちです。地域産業保健センターの無料相談を、年度の早い段階で一度使って流れをつかんでおくと、有所見者が出てから慌てずに済みます。

3つ目は、就業配慮を「特別扱い」と受け取られるのを社長が恐れること。これは医療・介護の現場でも同じでした。配慮を個人への例外ではなく、誰にでも適用される会社の制度として設計すると、本人も周囲も受け入れやすくなると感じています。

「健康診断」と聞いて身構える前に

健康診断の事後措置は、書類仕事の側面が目立ちます。条文番号が並ぶと、それだけで他人事に聞こえてしまうかもしれません。けれど中身はシンプルで、「結果を見て、危なそうな人を医師の目に通し、必要なら働き方を少し調整する」という順番を踏むだけです。

本質は、今いる人を、長く、健康に、現場に立ち続けてもらうことにあると考えています。認定や書類は、その順番をきちんと踏んだ会社に、後からついてくるものではないでしょうか。

明日からできる小さな一歩は、「直近の健診で有所見と判定された人数」と「そのうち事後措置まで完了した人数」を、1枚の表で数えることです。その1枚で、会社のリスクがどこにあるかが見えてきます。

よくある質問

Q. 健康診断を実施していれば、事業者の義務は果たしたことになりますか?

A. 実施は義務の一部です。労働安全衛生法では、異常の所見がある労働者について医師等からの意見を聴き(第66条の4)、必要があれば就業上の措置を講じる(第66条の5)ことまでが事業者の義務として定められています。実施で止まると、義務の後半が未完のままになります。

Q. 有所見と判定されても、本人が元気に働いていれば問題ないのでは?

A. 今働けていることと、放置してよいことは別の話だと考えています。私が23年の臨床現場で見てきた限り、身体機能の低下は本人が自覚するより前に、生活の動作パターンに沿って局所的に進みます。動けているうちに手を打てる範囲は広く、症状が出てからでは選べる手が狭まります。

Q. 産業医がいない50人未満の会社は、誰の意見を聴けばいいですか?

A. 従業員50人未満の事業場には産業医の選任義務はありませんが、地域産業保健センターの無料サービスで医師の意見聴取を受ける選択肢があります。意見聴取の相手がいないことは、事後措置を行わない理由にはなりません。

Q. 再検査を本人が受けてくれません。どうすればいいですか?

A. 再検査を受けない背景には、時間がない、現場を抜けにくい、結果を知るのが怖いといった事情が重なっていることが多いと感じています。会社として受診しやすい時間と費用の枠組みを用意し、結果を一緒に確認する場を制度として設けると、本人が動きやすくなります。

Q. うちの会社で、まず何から始めればいいですか?

A. 直近の定期健康診断で有所見と判定された人数と、そのうち何人が事後措置(医師意見聴取・再検査・就業配慮)まで完了しているかを、1枚の表で数えることから始めるのが現実的です。その1枚で、会社のリスクのありかが見えてきます。

最後に — 中小建設業の社長へ

健康診断は、受けさせた時点で終わる作業ではありません。結果を見て、危ない人を医師の目に通し、必要なら働き方を調整する。この後半まで踏んで、はじめて会社のリスク管理が一周します。実施だけで止まっている状態は、見えていたはずのリスクを見ないと選んだ状態に近いと、私たちは考えています。

DIALOGは、作業療法士23年の臨床経験で培った「人が働き続けられる条件を見抜く目」と、労働安全衛生法に基づく事後措置の実務理解の両方を持って、有所見者の棚卸しから医師意見聴取の段取り、就業配慮の制度づくりまでを一貫して伴走します。書類を整えるだけでなく、外部に依存し続けずに自走できる仕組みづくりが、私たちの提供価値です。貴社の現場の状況を伺ったうえで、最適な事後措置の体制をご提案します。

まずは、有所見者の人数を1枚、数えるところから動いてみてください。そこから先のステップは、私たちと一緒に詰めていきましょう。

著者プロフィール

三宮 孝太(株式会社DIALOG代表取締役 / 作業療法士)。作業療法士として23年、医療・介護の現場で人の生活と仕事を見てきた経験をもとに、北海道の健康経営・介護予防・ウェルネス支援に取り組んでいます。

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御社では今、有所見と判定された方のうち、何人が事後措置まで完了しているでしょうか。その1枚を一緒に数えるところから、現場のベテランが長く立ち続けられる体制づくりは始まります。DIALOGは作業療法士23年の臨床知見をもとに、貴社に最適な事後措置の体制をご提案し、一貫して伴走します。「うちはどこまでできているか」という入口のご相談から承ります。

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参考データ

本記事は、著者(作業療法士歴23年)の臨床経験と、各省庁の最新公開情報を踏まえた解説です。労働安全衛生法に基づく健康診断および事後措置の具体的な運用・様式・配点等は年度ごとの通達・制度改正により見直されるため、実際の対応にあたっては厚生労働省・労働局の最新公表資料を必ずご確認ください。本記事は特定の結果や法令適合を保証するものではありません。具体的な労務・産業保健上の判断については、社会保険労務士・産業医・地域産業保健センター等の専門家との併用をおすすめします。