「全国安全週間が来月始まる。例年どおりスローガンを掲示して終わりでは、現場が動かないことが分かってきた」——北海道の中小建設業の社長から、こうしたお話をうかがうことが増えてきました。
株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、作業療法士として23年間、医療と介護の現場で「人が安全に働き続けられる条件」を見続けてきた知見をもとに、北海道の中小建設業に向けた健康経営支援を提供しています。安全週間という制度の枠組みを、現場で実際に機能する1か月の動きに落とし込むのが私たちの役割です。
本記事では、2026年7月の全国安全週間(第99回)と、その手前にある6月の準備期間に、社長が動かしたい3つのことを、厚労省資料と臨床現場で見てきた現実の両面から整理します。
この記事の要点
- 令和8年度の全国安全週間は7月1日〜7日、準備期間は6月1日〜30日(厚労省主唱・第99回)
- 建設業の死亡者は2024年に232人で業種別最多(厚労省・令和6年)
- 準備期間にやるのは「最大リスク作業の特定」「朝礼の3要素化」「世代別の聞き取り」の3点に絞れる
制度の前提: 令和8年度スローガンは「多様な人材 全員参加 みんなで育てる安全職場」。主唱は厚生労働省、協賛団体に中央労働災害防止協会・建設業労働災害防止協会等が名を連ねます(出典は記事末尾)。
この記事で扱う論点
- 2026年スローガンが中小建設業に問いかけていること
- 建設業の死亡災害が業種別最多であり続ける現実
- 6月の準備期間に動かしたい3つの具体行動
- 本週間(7/1〜7/7)に何を残せれば成功と言えるか
2026年スローガンが中小建設業に問いかけていること
令和8年度の全国安全週間のスローガンは「多様な人材 全員参加 みんなで育てる安全職場」です(出典:厚生労働省「令和8年度『全国安全週間』を7月に実施」)。今年で第99回目を迎える、最も歴史のある労働安全の啓発活動です。
「多様な人材」という言葉が前面に出てきていることに、私は注目しています。建設業の現場では、20代の新人と60代の熟練職人、男性と女性、技能実習生や特定技能の外国人材まで、年齢も背景も異なる人が同じ作業に関わる場面が増えてきました。同じ朝礼で同じ言葉を聞いても、受け取り方は人によって違います。
「全員参加」「みんなで育てる」も同じ向きの言葉です。社長や安全担当者が一方的に教える形ではなく、現場の一人ひとりが自分の言葉で安全を語る場が要るというメッセージを、私はこのスローガンから受け取っています。
建設業の死亡災害が業種別最多であり続ける現実
厚生労働省が公表している2024年(令和6年)の労働災害発生状況によると、建設業の死亡者数は232人で、業種別では最多です。前年から9人増えて4.0%の増加となりました(出典:厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」)。
全産業の休業4日以上の死傷者数は135,718人で、事故の型では転倒が36,378人、墜落・転落が20,699人を占めます。建設業特有の高所作業・重機作業・解体作業は、そのまま事故統計の上位に並んできます。
私が23年の臨床現場で見てきた限り、建設業から運ばれてくる方の多くは、何かを大きく間違えたのではなく、いつも通りの作業の中で「いつもと少し違う条件」が重なった瞬間に被災されています。準備期間の1か月は、その「少し違う条件」を社内で言語化する時間として使えるのではないでしょうか。
動き1:自社の最大リスク作業を「1つだけ」特定する
準備期間の最初に動かしたいのは、現場の点検対象を絞ることです。多くの会社で起きているのは、安全週間にあれもこれもと盛り込み、結局どれも掘り下げきれずに本週間が終わってしまう構図です。
30日間あるとはいえ、現場は通常の工程で動いています。社長と現場責任者で集まる時間は限られています。だからこそ「過去1年で最もヒヤリとした作業」を1つだけ選ぶことに、最初の30分を使う価値があります。
選び方の問いはシンプルです。「あの作業で、もし条件が悪い方に2つ重なっていたら、人が運ばれていたのではないか」——社長と現場責任者が静かに振り返れば、候補は数件に絞られてくることが多いはずです。そこから1つを選び、準備期間の30日間はその作業の点検と教育に集中します。
動き2:朝礼の安全確認を「3要素」に絞り直す
準備期間に取り組みたい2つ目は、朝礼の安全確認の中身です。長年の朝礼で「ヨシ!」の唱和だけが残り、何を確認しているか本人も曖昧——こうした状態は、現場が悪いのではなく、確認項目が多すぎて頭に入らない構造に原因があると感じています。
準備期間の30日間は、朝礼の安全確認を3要素に絞り直すことを試してみる時期です。3つの要素は会社によって違って構いません。たとえば、「今日の作業で最も墜落リスクの高い場面」「今日体調がいつもと違う人がいないか」「今日の現場で最も若手と最も高齢の人が誰か」——この3点だけを声に出して確認するだけでも、朝礼の密度は変わってきます。
動き1で選んだ「最大リスク作業」を、この3要素のうちの1つに紐づけると、月の最後まで朝礼が形骸化しません。スローガンを貼ることより、毎朝30秒の言葉を変えることの方が、現場では大きな違いになります。
動き3:60代・若手それぞれの「苦手な動作」を聞き出す機会を作る
3つ目は、2026年スローガンの「多様な人材」に正面から応える動きです。同じ朝礼で同じ言葉を聞いても、20代と60代では受け取り方が違うという話を、最初に書きました。準備期間中に世代別の聞き取りを30分だけ設けることを、私はおすすめしたいと感じています。
聞き出したいのは、本人の口から出る「最近、この動作が以前より少し怖い」「この場面でひやっとした」という一言です。23年の臨床現場で見てきた限り、こうした一言は、自分から名乗り出る形では出てきません。社長や責任者が場を作り、年代ごとに小さな単位で問いかけて初めて、口を開けるようになる方が多い印象があります。
6月の準備期間・週ごとの動かし方(例)
- 6月第1週:社長と現場責任者で「最大リスク作業」を1つ特定
- 6月第2週:朝礼の安全確認を3要素に絞り直し、現場で運用開始
- 6月第3週:60代・40代・20代の世代別ミニ聞き取り(各30分)
- 6月第4週:聞き出した課題を踏まえ、本週間に向けた具体策を社内で言語化
- 7月1〜7日(本週間):準備期間に決めたことを実行・記録・振り返り
※あくまで一例です。会社の規模や工事の繁忙度に合わせて、無理のない範囲で組み直してください。
本週間に何を残せれば成功と言えるか
準備期間でここまで動けると、7月1日からの本週間は「掲示で終わる1週間」になりません。社内に残るのは、ポスターではなく、選び出した1つの作業に関する具体的な改善メモと、世代別に聞き出した現場の声です。
言い換えると、本週間が終わったあとに「あの作業の手順が1つ変わった」「あの人の怖さが言葉になった」と振り返れるかどうかです。残った1ページのメモが、翌年の安全週間の出発点になり、健康経営優良法人の申請資料や経審の労働福祉項目の説明にも転用できる素材になっていきます。
第99回という節目の年に、来年の第100回に向けた最初の1ページを社内に残せると、99回続いた制度の重みを、自社の歴史にも接続できるのではないかと感じています。
よくある質問
Q. 2026年の全国安全週間はいつですか?スローガンは?
A. 令和8年度(2026年)の全国安全週間は7月1日(水)から7月7日(火)まで、準備期間は6月1日(月)から6月30日(火)までです。スローガンは「多様な人材 全員参加 みんなで育てる安全職場」で、厚生労働省が主唱しています。今年で第99回目の実施となります。
Q. 建設業の労働災害は、どのくらい深刻ですか?
A. 2024年(令和6年)の建設業の死亡者数は232人で、業種別では最多です(前年比9人増・4.0%増)。全産業の休業4日以上の死傷者数は135,718人で、転倒が36,378人、墜落・転落が20,699人を占めます。建設業特有の高所作業・重機作業・解体作業は、そのまま事故統計の上位に並んできます。
Q. 従業員10人前後の小さな会社でも、安全週間に何かやるべきですか?
A. 23年の臨床現場で見てきた限り、規模が小さいほどスローガン掲示や形式的なポスター掲出の効果は限定的でした。代わりに「1つの作業を1人ずつ点検する」「朝礼で過去のヒヤリ事例を1件だけ共有する」といった、小さく深い動きの方が現場で機能します。準備期間の1か月を「日替わりで違う作業を点検する月」として組み立てる進め方も有効です。
Q. 若手と60代では、安全教育のやり方を変えたほうがいいですか?
A. 23年の臨床現場で見てきた限り、若手は「自分が事故を起こすイメージ」が持ちにくく、60代は「以前と同じやり方が通用しなくなっている事実」を口に出しにくい傾向があります。年代によって苦手な動作・気をつけたい場面が異なるため、全員同じ研修よりも、世代別に話を聞く30分の場を設ける方が現場の声が引き出しやすいと感じています。
Q. うちの会社で、何から始めればいいですか?
A. 6月1日までに「過去1年で最もヒヤリとした作業」を社長と現場責任者で1つだけ選ぶことから始めるのが、無理のないスタートだと感じています。1つに絞れば、朝礼で語るネタも、点検対象も、教育内容も、その作業に紐づけて設計しやすくなります。準備期間の30日間を「1つの作業を全員で見直す月」として使う進め方が、規模の小さい会社には向いているのではないでしょうか。
最後に — 中小建設業の社長へ
全国安全週間は、ポスターを貼って終わるための行事ではなく、「自社の安全をどう育てるか」を社内で言語化するための制度です。第99回という重みのある節目の年に、社長が動かす1か月の使い方で、現場の景色は変わってきます。
DIALOGは、作業療法士23年の臨床経験で培った「人が安全に働き続けられる条件を見抜く目」と、労働安全衛生・健康経営の最新の制度動向の理解の両方を持って、中小建設業の安全週間の組み立てから本週間後の振り返りまでを伴走します。ポスター掲示で終わらせない準備期間の設計を、貴社の規模と工程に合わせてご提案します。
まずは、過去1年で最もヒヤリとした作業を1つだけ振り返るところから動いてみてください。そこから先のステップは、私たちと一緒に詰めていきましょう。