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高齢職人・墜落転倒・エイジフレンドリー

60代職人の墜落・転倒リスクをどう減らすか
個別アセスメントから始める中小建設業の安全対策

著者: 三宮 孝太(作業療法士・株式会社DIALOG代表)

「ヒヤリ・ハットの報告書を読んでいると、最近どうもベテラン勢の名前ばかりが並んでいる」——北海道の中小建設業の社長から、こうしたお話をうかがう機会が増えてきました。

株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、作業療法士として23年間、医療と介護の現場で人の身体機能がどう変化していくかを見続けてきた知見をもとに、北海道の中小建設業に向けて、高齢労働者の安全衛生と健康経営の両立を支援しています。本記事では、画一的な安全教育では届きにくい高齢職人の墜落・転倒リスクを、個別アセスメントから減らしていく考え方を整理します。

読み終えたあとに、社長が「来週、まず誰について何を聞き取ろうか」と判断できる材料をお渡しすることが目標です。

この記事の要点

制度の前提: エイジフレンドリーガイドラインは厚生労働省が高年齢労働者の安全衛生確保のために策定。建設業の労働災害統計は厚生労働省「労働災害発生状況」で年次公表(出典は記事末尾)。

この記事でご一緒に考えたいこと

建設業の労働災害は、高齢層に偏ってきている

厚生労働省が毎年公表している「労働災害発生状況」を見ると、建設業の死亡災害・休業4日以上の災害ともに、墜落・転落と転倒が大きな割合を占め、年齢が上がるほど発生率が高くなる傾向が示されています。最新値は年度ごとに見直されるため、必ず厚生労働省の公表資料でご確認ください。

「60歳を超えた職人さんに、若い頃と同じ仕事の出し方をしていいのか」——社長との会話で、この問いが何度も出てきます。日本の建設業就業者は55歳以上の比率が高い構造で(出典:国土交通省「建設業の現状」)、現場の主力がベテランで構成されている会社は珍しくありません。

身体機能は「年齢で一律に」落ちるわけではない

私が23年の臨床現場で観察してきた限り、加齢に伴う身体機能の低下には、はっきりした順序と個人差があると感じています。

最初に落ちるのは、その人が日々繰り返している動作に応じた、局所の柔軟性と可動性です。全身が一律に固くなるのではなく、毎日続けている特定の動作と姿勢に対応した部位から、まず動きが固くなっていきます。建設業のように、職種ごとに身体の使い方の偏りが大きい職業では、この傾向はより顕著に出ます。

次に、筋力や体力が低下していきます。判断力・注意力・視力も加齢で落ちますが、これらの機能には特に大きな個人差があると、臨床では感じてきました。同じ60歳でも、人によってまったく違う状態です。年齢の数字だけで対策を組むと、ここで取りこぼしが起きます。

全員一律の安全教育が、なぜ届かないのか

多くの会社で、ヒヤリ・ハットの増加に対して「もう一度、全員を集めて安全教育をしよう」という打ち手が選ばれます。これ自体は否定する話ではありません。ただ、私が臨床で見てきたことから言えるのは、一律の処方は、誰にも完全に合わないことが多いという事実です。

足元の段差で躓きやすくなっている職人さんと、高所での姿勢保持が辛くなっている職人さんに、同じ動画教材を見せても、それぞれの身体に届く部分は限られます。本人が「自分のことだ」と感じる前に、教材は終わってしまうかもしれません。

もう一つの構造があります。職人さんの多くは、自分の不調を「年のせい」「自分の体質」と捉えています。臨床で見てきた限り、その不調の多くは、本人の体質ではなく、仕事の動作の蓄積から来ているものです。けれど本人はその関連に気づいていないことが多い。だから、本人の申告を待つ受動的な仕組みでは、対策が後手に回ります。

エイジフレンドリーガイドラインを土台にする

厚生労働省は「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」を策定し、高齢労働者を雇用する事業者に対して、設備対応・健康管理・転倒予防教育などの考え方を示しています。罰則を伴う義務ではなく、安全配慮義務を果たす際の参照枠組みという位置づけだと言われています(最新の位置づけは厚生労働省の公表資料でご確認ください)。

ガイドラインには、身体機能のチェックの考え方や、職場環境の改善項目が示されています。中小建設業で実装する際に重要なのは、この考え方を自社の作業内容に翻訳して、現場で使える形に落とし込むことです。汎用のチェックシートをそのまま配るだけでは、機能しないケースが多いと感じています。

個別アセスメントを、1人から始める

「制度を一気に作るのは難しい」というお話を、社長からよく伺います。私からの提案は、まず1人のベテラン職人さんについて、30分の聞き取りから始めることです。

聞き取る内容は3つに整理できます。

この3つを書き出すだけで、その人に固有の負荷パターンが見えてきます。1人について見えると、社内の他のベテランにも同じ視点で見ていけるようになります。最初から完璧な制度設計をしようとせず、1人の現実から組み上げていくのが、結果として早い道だと感じています。

健康経営優良法人の認定要件にも接続する

こうした個別アセスメントの取り組みは、健康経営優良法人(中小規模法人部門)の評価項目とも親和性があります。経営理念への健康経営の位置づけ、組織体制、制度・施策の実行、評価・改善のサイクルといった項目に、自然と材料がそろっていきます。

認定の取得そのものより、「取りに行く過程で社内の健康課題が見える化されること」に本当の価値があるのは、過去のブログでも繰り返し書いてきた通りです。高齢職人の安全対策は、その見える化の最良の入口の一つだと感じています。

明日からできる一歩

明日からできる一歩は、「直近1年のヒヤリ・ハット報告書を、年齢別に並べ直してみる」ことです。年齢構成と災害の偏りが目で見えてくれば、誰から個別アセスメントを始めるべきかが、自然と浮かび上がってきます。書類の山の中に、すでに答えのヒントが眠っていることが多いものです。

よくある質問

Q. 高齢職人の安全対策として、まず何から始めればよいですか?

A. 全員に同じ安全教育を一斉に行うより、まず現場のベテラン職人さん一人ひとりの身体の状態と作業内容を、簡易なシートで棚卸しすることから始めるのが現実的だと感じています。厚生労働省のエイジフレンドリーガイドラインに身体機能チェックリストの考え方が示されており、これを自社の作業特性に合わせて使うのが入口になります。

Q. エイジフレンドリーガイドラインは法的義務ですか?

A. 現時点では努力義務的な位置づけで、罰則を伴う義務ではありません。ただし高齢労働者の労働災害が増えている背景から、安全配慮義務を果たしているかを判断する際の重要な参照枠組みになっていると言われています。最新の位置づけは厚生労働省の公表資料でご確認ください。

Q. 個別アセスメントというと、人ごとに対応を変えるのは公平性に欠けませんか?

A. ご懸念は分かります。ただ私の臨床経験では、身体機能の落ち方には大きな個人差があり、同じ60歳でも人によってまったく違う状態です。一律対応こそが、実は誰にも合っていないという結果を生むことがあります。「公平に違う対応をする」ための土台が個別アセスメントだと捉え直すと、社内の合意は作りやすくなるのではないでしょうか。

Q. 高齢職人本人が、不調を申告してくれません。どうすればよいですか?

A. 本人が「年のせい」「自分の体質」と捉えていて、仕事と不調の関連に気づいていないことが多いと、私は臨床現場で繰り返し見てきました。本人の申告を待つのではなく、第三者の視点で作業と身体を結びつけて見る仕組みを社内に作ることが、現実的な打開策になると感じています。

Q. 中小規模の会社で、こうした取り組みを始める余力がありません。

A. 完璧な制度を作る必要はありません。まずは「ベテラン1人について、作業と身体の聞き取りを30分してみる」という規模から始められます。1人の現状が見えると、社内の他の人にも同じ視点で見ていけるようになります。健康経営優良法人の認定要件にも親和性があり、認定取得を視野に入れている会社では、この取り組みがそのまま申請材料に育っていきます。

最後に — 中小建設業の社長へ

高齢職人の墜落・転倒対策は、一見すると安全衛生の専門領域に見えます。けれど本質は、「現場で長く働いてきた人の身体と、明日の仕事をどうかみ合わせるか」を社内で言語化する作業です。年齢を理由に役割を狭めるのでも、若い頃と同じ仕事をそのまま続けてもらうのでもなく、本人と仕事の組み合わせを設計し直す視点が、ここで必要になります。

DIALOGは、作業療法士23年の臨床経験で培った「身体機能の落ち方を構造で見る目」と、厚生労働省エイジフレンドリーガイドライン・健康経営優良法人の認定要件の理解の両方を持って、貴社の高齢職人アセスメントの設計から運用までを一貫して伴走します。

まずは、直近1年のヒヤリ・ハット報告書を、年齢別に並べ直すところから動いてみてください。そこから先のステップは、私たちと一緒に詰めていきましょう。

著者プロフィール

三宮 孝太(株式会社DIALOG代表取締役 / 作業療法士)。作業療法士として23年、医療・介護の現場で人の生活と仕事を見てきた経験をもとに、北海道の健康経営・介護予防・ウェルネス支援に取り組んでいます。

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DIALOGでは、北海道の中小建設業を対象に、高齢職人の個別アセスメントの設計から、エイジフレンドリーガイドラインに沿った現場改善・健康経営優良法人の認定取得までを一貫して伴走しています。いきなり相談を申し込むのは早いと感じる方は、まず無料メール講座でぱとすの考え方を受け取ってみてください。「うちの現場で何から始めればいいのか」が見えてきます。

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参考データ

本記事は、著者(作業療法士歴23年)の臨床経験と、各省庁の最新公開情報を踏まえた解説です。エイジフレンドリーガイドラインの内容、労働災害統計の数値、健康経営優良法人の認定要件等は年度ごとに見直されることがあるため、実際の運用にあたっては各省庁の最新公表資料を必ずご確認ください。本記事は労働災害の防止を保証するものではありません。具体的な労務・安全衛生・建設業法上の解釈については、社会保険労務士・産業医・建設業労働災害防止協会等の専門家との併用をおすすめします。