新入社員が辞める一番の理由は、仕事のきつさではありません。「自分は見られていない」と感じた瞬間です。
4月の入社式から2か月。研修が終わり、連休が明けると、若手の表情が急に静かになる時期があります。北海道の中小建設業で、このタイミングを過ぎてから「最近どう?」と聞き始める社長が、想像以上に多いと感じています。
株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、作業療法士として23年間、急性期医療の現場で「人が働き続けられる条件」を見てきた知見をもとに、北海道の中小建設業の健康経営支援を提供しています。若手定着では、制度設計の前に「入社後90日の声かけと体調確認の流れ」を社長と一緒に組み立てるところから伴走します。
本記事では令和7年版労働経済白書と厚労省データをもとに、中小建設業の社長が5〜6月に動かしたい若手定着の3つのことを整理します。
この記事の要点
- 建設業の新規高卒就職者の3年以内離職率は約42.7%(厚生労働省)。最初の山は入社後3か月に集中しやすい
- 5〜6月は「研修終了後の現場配属」と「連休明け」が重なり、リアリティショックが顕在化する時期
- 30日・60日・90日の節目で社長が1対1の短い対話を設計するだけで、辞める前の違和感は拾える
制度の前提: 健康経営優良法人の認定要件には、働き方・コミュニケーション促進・両立支援が含まれ、定着率向上の取り組みは間接的に加点要素になります(経済産業省「健康経営優良法人認定制度」、出典は記事末尾)。
この記事で扱う論点
- 建設業の若手離職データ——5〜6月に何が起きているか
- なぜ「給料を上げる」前に「90日の設計」なのか
- 社長が動かしたい3つのこと——30日・60日・90日の対話
- 定着率向上が健康経営優良法人の評価とどう接続するか
建設業の若手離職データ——5〜6月に何が起きているか
厚生労働省の新規学卒就職者の離職状況によると、建設業の新規高卒就職者の3年以内離職率は約42.7%、新規大卒就職者は約30%台で推移しています(出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」)。全産業平均と比べ、建設業は高卒の数値が高めに出る年が続いています。
3年で4割。長期戦のように見えますが、実際は逆です。離職の山は最初に来ます。
令和7年版労働経済白書は、若年労働者の早期離職要因として「労働条件のミスマッチ」と「人間関係」を挙げています(出典:厚生労働省「令和7年版労働経済の分析」)。建設業で「ミスマッチ」が一番強く出る時期が、研修後の現場配属直後です。
4月に学んだ「会社の理念」と、5月の現場で出会う「天気・先輩・段取り」のギャップが、若手の中で積み上がります。連休明けに表情が変わるのは、その結果です。
なぜ「給料を上げる」前に「90日の設計」なのか
給料は、離職を止める一番の武器ではありません。少なくとも最初の90日では効きません。
急性期病院のリハビリ室で、20代のスタッフが辞めるかどうかの分かれ目を、私は23年間で何度も見てきました。残った人と辞めた人の差は、給料でも休日数でもなく、「最初の3か月で、自分の名前を呼んで話しかけてくれる先輩が何人いたか」でした。
これは私の見立てですが、建設業の現場も構造は同じです。重機操作も段取りも、3か月では身につきません。本人が知りたいのは「ここで頑張っていいのか」「自分はこの会社に必要なのか」の2つだけです。
90日の設計とは、この2つの問いに社長と先輩が言葉で答え続ける仕組みです。お金より早く、確実に効きます。
社長が動かしたい3つのこと——30日・60日・90日の対話
5〜6月に動かしたいのは、入社日から数えた30日・60日・90日の節目に、社長と本人の1対1の対話を入れることです。1回15分で十分です。
30日目は、現場で一番戸惑ったことを1つだけ聞きます。答えは要りません。「言ってもいい場所がある」と本人に伝わることが目的です。
60日目は、体調を聞きます。睡眠時間・食事の量・前夜の入浴の有無——この3つで初期サインの大半は拾えます。眠れていない若手は、現場で必ず判断が鈍ります。
90日目は、今後3か月で覚えたい技術を本人に言葉にしてもらい、社長は「それを誰に習うか」を一緒に決めます。先輩が指名されると、現場側にも「育てる役目」が明確になります。
15分×3回×新入社員数。残るのは対話の日付と、社長のメモ書き1枚です。
入社後90日に組み込みたい3つの対話(例)
- 30日目(5月上旬):現場で一番戸惑ったことを1つ聞く。聞くだけでいい
- 60日目(6月上旬):睡眠時間・食事の量・前夜の入浴の有無を聞く
- 90日目(7月上旬):今後3か月で覚えたい技術と、教える先輩を一緒に決める
※対話は1回15分で十分。場所は事務所でも休憩所でも構いません。メモを社長の手帳に残すことが、翌年の採用・育成の財産になります。
定着率向上が健康経営優良法人の評価とどう接続するか
定着の取り組みは、採用ブランドの強化だけにとどまりません。健康経営優良法人の認定要件には、働き方・コミュニケーション促進・両立支援などの評価項目があり、定着率向上の取り組みは間接的に加点要素になります(出典:経済産業省「健康経営優良法人認定制度」)。
さらに、公共工事の総合評価方式で健康経営優良法人を加点する自治体も増えています。若手定着の対話設計が、認定要件の整備に直結し、入札評価まで一本で効いてくる——これが中小建設業にとっての構造上の利点です。
もし1つだけ持ち帰るなら
若手定着は給料の問題ではなく、入社後90日の対話量の問題です。30日・60日・90日の節目に社長が15分の対話を設計するだけで、5〜6月に表情が変わる若手の違和感を、辞表の前に拾えるようになります。
よくある質問
Q. 新入社員が早期に辞める時期は本当に5〜6月なんですか?
A. 厚生労働省の新規学卒就職者の離職状況によると、建設業の新規高卒就職者の3年以内離職率は約42.7%、新規大卒就職者は約30%台で推移しています。離職は3年通算で起きますが、最初の山は入社直後の数か月に集中しやすく、4月の研修終了から現場配属後の5〜6月に違和感が顕在化することが多いと感じています。
Q. うちは10人未満の会社ですが、定着の仕組みなんて作れますか?
A. 規模が小さい会社ほど、社長の一言と現場の先輩の一言が定着率に直結します。逆に言えば、制度を整える前に、入社後90日の声かけと体調確認の流れを決めるだけで土台ができます。専任の人事担当を置く必要はありません。
Q. 健康経営優良法人の認定で、若手定着は評価されますか?
A. 健康経営優良法人の認定要件には、従業員の働き方・コミュニケーション促進・両立支援などの評価項目があり、定着率向上の取り組みは間接的に加点要素になります。公共工事の入札評価でも、健康経営優良法人の取得が加点される自治体が増えており、定着の取り組みは採用と入札の両方で効いてきます。
Q. 新人の体調が悪そうな時、何を聞けばいいですか?
A. 睡眠時間・食事の量・前夜の入浴の有無の3つを聞くだけで、初期サインの大半は拾えます。専門知識は要りません。23年の臨床経験で見てきた限り、体調を崩す前段階は、本人が言葉にする前から日常生活の小さな変化に表れます。
Q. 何から始めればいいですか?
A. 今いる新入社員の入社日から数えて、今日が何日目かを書き出すことから始めてください。30日・60日・90日のタイミングで、社長と本人の1対1の短い対話を設定するだけで、辞める前の違和感の多くは拾えるようになります。
最後に — 中小建設業の社長へ
若手定着は、給料や休日数で勝負する話ではありません。「自分はここで見られている」という体感を、最初の90日で渡せるかどうかの話です。
急性期病院で23年、入院初日の患者さんが「ちゃんと見ててくれますか」と最初の30秒で確かめてくる場面に、私は何度も立ち会ってきました。人が新しい場所に入る時の不安の根っこは、職業や年齢を超えて同じです。社長の30秒の声かけが、若手の半年を決めます。
DIALOGは、作業療法士23年の臨床知見と、健康経営優良法人・労働経済白書の最新動向の理解の両面で、北海道の中小建設業の若手定着を入社後90日の対話設計から伴走します。書類仕事ではなく、来週の朝礼から動かせる形でご提案します。