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採用・定着

退職金制度
30〜99人の会社の3割にない。3年目まで逆算で設計

著者: 三宮 孝太(作業療法士・株式会社DIALOG代表)

従業員30〜99人の会社の、およそ3割には、退職金制度がありません。

厚生労働省の令和5年の調査では、退職金などの制度がある企業は、30〜99人で70.1%でした。1,000人以上では90.1%です。全体でも、平成30年の80.5%から74.9%に下がっています。

「うちは毎月の給料で返している」。そう考える社長もいるでしょう。

ただ、制度の有無は、求人票の欄にそのまま出ます。応募者は、給料と同じ1枚の上でそれを見ます。

この記事は、入社3年以内の若手が抜けていく会社に向けて、退職金を「辞める人に払うお金」ではなく、「3年目まで働く理由」として設計し直す話です。

代表の三宮は、作業療法士として23年間、急性期医療の現場に立ってきました。見続けてきたのは「人が働き続けられる条件」です。株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、その知見をもとに中小企業の採用・定着を支援しています。健康経営と採用設計の両面から手を打つのが、私たちのやり方です。

この記事の要点

退職金制度とは、辞めるときに払うお金を、働いている間に約束しておく仕組みです

退職金制度は、法律で設けることが義務づけられた制度ではありません。設ける場合は、対象となる人や計算の方法、支払いの時期を就業規則に定めると、労働基準法で定められています。

言い換えると、「長く働いてくれたら、これだけ返す」という約束を、先に紙に書いておくことです。

退職金などの制度がある企業の割合(令和5年)

70.1%
30〜99人の企業(制度がない企業は29.5%)
90.1%
1,000人以上の企業
48.5%
30〜99人で一時金がある企業のうち、中退共で準備している割合

出典:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」第16表・第17表。退職給付(一時金・年金)制度の有無

30〜99人の会社では、社内で積み立てる会社が49.6%、中退共を使う会社が48.5%でした。小さな会社ほど、国の共済に支払いの準備を任せています。

求人票には、給料の隣に「退職金」の欄があります

ハローワークの求人票には、「退職金共済」と「退職金制度」の欄があります。

北海道労働局の入力要領では、退職金共済は「加入」か「未加入」を選びます。退職金制度は「あり」を選び、勤続年数に条件があればその年数を書きます。条件がなければ「不問」です。

つまり応募者は、給料・休日と同じ紙の上で、「この会社に長くいると何が起きるか」を読んでいます。

これは私の見立てですが、若い応募者が退職金の額そのものを比べているとは思いません。見ているのは、「この会社は、自分が長くいる前提で話をしているか」という姿勢ではないでしょうか。

23年の臨床で見てきた限り、続けたい気持ちがあっても、職場が自分を長く置く前提なのかが見えないと、人は辞める側に傾くように感じています。退職金の説明は、その前提を言葉と数字で示す手段の1つです。

中退共は「1年未満は出ない、3年7か月から増える」仕組みです

中退共は、国の制度として運営されている、中小企業のための退職金の共済です。会社が毎月の掛金を納め、従業員が辞めるときに退職金が支払われます。

支払われる額は、掛金を納めた月数で4段階に分かれます。

中退共の掛金納付月数と退職金の関係

掛金を納めた月数退職金入社後に重なる時期
11か月以下支給されない入社1年目
12〜23か月掛金の合計を下回る額入社2年目
24〜42か月掛金の合計と同じ額入社3年目〜4年目の前半
43か月以上運用利息などが上乗せされる入社4年目の後半から

出典:中小企業退職金共済事業本部(中退共)Q&A「加入後1年未満で退職した場合は退職金は支給されますか?」。「入社後に重なる時期」は、入社月から加入した場合の目安としてDIALOGが作成

出なかった分や、掛金を下回った差の分は、会社には戻りません。中退共全体で、長く加入している人の退職金の財源に回ります。

言い換えると、早く辞めた人の分が、長く残った人に回る設計です。たとえると、3年7か月を越えて残った人の枝にだけ、実が多くつく木のような仕組みです。

会社側の負担を軽くする仕組みもあります。新しく加入する会社には、加入後4か月目から1年間、掛金月額の2分の1を国が助成します(従業員ごとに上限あり)。掛金は、法人なら全額を損金にできます。

ここまでで覚えてほしい1行。中退共の分かれ目は「1年」「2年」「3年7か月」。入社1年目から4年目にかけての節目と重なっています。

入社2年目の若手は、自分の退職金がいくらか知りません

ここからは仮定です。入社2年目の若手が、休みの日に転職サイトを眺め始めたとします。

本人は、自分の退職金がいま、いくら積み上がっているかを知りません。比べる材料は、目の前の求人の月給だけになります。

中退共に入っている会社には、毎年、従業員ごとの「掛金納付状況票」と「退職金試算票」が届きます。この1枚を、入社2年目の面談で本人と一緒に見たらどうでしょうか。

「あと何か月で掛金の合計に届き、何か月目から上乗せが付くか」。この見通しを、本人が自分の数字で知ることになります。辞めるかどうかを決める前に、比べる材料が1つ増えます。

同じ話は、面接でも使えます。求人票の「退職金制度 あり」の1行に、「何年目から、何が起きるか」を1分で添えられるからです。

入れるなら、最初に決めておく3つのこと

加入の申込みより先に、次の3つを決めておきます。

退職金制度を「3年目まで働く理由」にする3つの決めごと

決めること中身定着との関係
① 加入の開始月中退共は、試用期間中の人を加入させなくてもよい扱い。何か月目から加入するかを決め、規程と求人票をそろえる加入が遅れると、月数の数え始めも遅れ、節目が後ろにずれる
② 求人票の勤続年数規程の「勤続◯年以上」を求人票に書き、面接で1分で説明できるようにする内定承諾の前に、長くいる前提の会社だと伝わる
③ 試算票の見せ方毎年届く試算票を、入社2年目・3年目の面談で本人と一緒に見る辞めやすい時期に、自分の数字で見通しを持てる

出典:中退共「加入できる企業・従業員」「制度の特色」、北海道労働局「求人申込時の入力要領」をもとにDIALOG作成

掛金は、従業員ごとに16種類から選べます。ただし減らすときは、従業員の同意などが必要です。最初は無理のない額から始め、増やす方向で考えるほうが安全です。

中途入社の人が前の会社で中退共に入っていた場合、条件を満たせば月数を通算できます。面接でこの点を確かめておくと、入社後の説明が早くなります。

就業規則の変更や届出が必要になる場合もあります。手続きは社会保険労務士にご確認ください。若手の辞める時期の調べ方は離職率、求人票の書き直しは求人票、辞めた理由の聞き方は退職面談の記事で扱いました。

退職金は、辞める日ではなく、続ける日のための制度です

退職金は、名前のせいで「辞める日のお金」に見えます。けれど本人にとって意味があるのは、働いている間に「この先」を見通せることです。

払う日は、何年も先です。約束を伝える日は、求人票を出す日と、毎年の面談の日に、もう来ています。

もし1つだけ持ち帰るなら

自社の求人票の「退職金制度」と「退職金共済」の欄に、いま何と書いてあるかを確かめてみてください。

よくある質問

退職金制度は、法律で義務ですか?

義務ではありません。設ける場合は、対象者・計算方法・支払時期などを就業規則に定める必要があります(労働基準法第89条)。

パートの社員も中退共に入れられますか?

入れられます。短時間労働者は加入させなくてもよい扱いですが、加入させる場合は特例の掛金と、国の助成の上乗せがあります。

中途入社の社員が、前の会社で中退共に入っていました。

掛金を12か月以上納めていて、退職後3年以内に加入し、退職金を請求していなければ、月数を通算できます。

最後に — 人材課題を抱える中小企業の経営者様へ

退職金は、大きな会社だけの制度ではありません。国の共済を使えば、30〜99人の会社でも、入社1年目・2年目・3年7か月という節目を、社員と共有できる仕組みになります。求人票の1行と、年に1度の面談の1枚。その2か所から、3年目まで働き続ける理由を設計してみませんか。

著者プロフィール

三宮 孝太(株式会社DIALOG代表取締役 / 作業療法士)。作業療法士として23年、急性期医療の現場で「人が働き続けられる条件」を見続けてきました。その臨床知見をもとに、現在は中小企業の採用・定着、健康経営、介護予防の支援に取り組んでいます。

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求人票と面談で、3年目まで働く理由を

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人が採れない、入社しても辞めてしまう会社へ。DIALOGは、人が採れない・辞めてしまう課題を抱える中小企業の採用・定着を支援しています。退職金のような「長くいる前提」の材料を、健康づくりの仕組みでも求人票と職場に増やしていく。その手段としてご提案しているのが、健康経営優良法人の取得支援です(建設業向けには「ぱとす」による伴走支援も行っています)。ご相談では、求人票の見せ方や入社後の面談の組み立てを、本記事のような視点も踏まえて一緒に確認します。作業療法士23年の臨床知見をもとに、貴社の業種・現状に合わせて一貫して伴走します。

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参考データ

本記事は、著者(作業療法士歴23年・急性期医療従事)の臨床知見と、公的機関の公開資料を踏まえた解説です。退職給付制度の割合は、常用労働者30人以上の企業を対象とした令和5年就労条件総合調査の結果で、30人未満の企業の数字ではありません。表の「入社後に重なる時期」は、入社した月から中退共に加入した場合の目安としてDIALOGが作成したもので、加入の時期によって変わります。表「3つの決めごと」はDIALOGによる整理です。「応募者が見ているのは額より姿勢」「長く置く前提が見えないと辞める側に傾く」は筆者の見立て・所感であり、調査が示したものではありません。入社2年目の若手が転職サイトを見る経過は、説明のための仮定であり、実在の事例ではありません。臨床現場に関する記述は、著者の所感を述べたもので、特定の個人を指すものではありません。退職金制度の設計、就業規則の変更・届出、中退共の加入手続きや助成の要件など個別の判断は、中退共、所轄の労働基準監督署、社会保険労務士にご確認ください。制度の内容は改正されることがあるため、最新情報は各機関の公表資料をご参照ください。本記事は、採用の成果や離職率の改善を保証するものではありません。