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採用・定着

キャリアパス
若手が「相談してこない」のは、満足の印とは限らない

著者: 三宮 孝太(作業療法士・株式会社DIALOG代表)

この1年で、若手から「この先、どうなりたいか」の相談を受けたことはありますか。

なければ、こう考えるかもしれません。「うちの若手は、特に不満がないのだろう」。

厚生労働省の令和7年度の調査では、キャリアの相談のしくみがない事業所に理由を聞いています。1位は「労働者からの希望がない」で、49.0%でした。

ところが別の調査では、15〜34歳の若手正社員の31.2%が「転職したいと思っている」と答えています。

相談が来ないことと、辞める気がないことは、別の話です。

この記事は、若手が入社2〜3年で抜けていく中小企業に向けた話です。キャリアパスを「大企業の人事制度」ではなく、面接と面談で使う1枚の道筋として作ります。

代表の三宮は、作業療法士として23年間、急性期医療の現場に立ってきました。見続けてきたのは「人が働き続けられる条件」です。株式会社DIALOG(2026年5月設立)は、その知見をもとに中小企業の採用・定着を支援しています。健康経営と採用設計の両面から手を打つのが、私たちのやり方です。

この記事の要点

相談が来ないのは、聞く場所がないからかもしれません

相談のしくみの有無は、会社の規模でくっきり分かれます。

正社員にキャリアの相談のしくみがある事業所の割合(令和7年度)

34.3%
30〜49人の企業
40.4%
50〜99人の企業
72.6%
1,000人以上の企業

出典:厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」調査結果の概要 図39(キャリアコンサルティングを行うしくみがある事業所)

しくみがある事業所でも、困りごとの上位は「相談件数が少ない」41.6%でした。窓口を置いて待つだけでは、相談は来にくいということです。

言い換えると、若手の「この先」は、会社の側から決まった時期に聞かないと、表に出てきにくいのです。

若手が会社を変えたい理由に、「先」の話が3つ並びます

転職したい若手正社員に理由を聞くと、1位と2位は賃金と休日です。ただ、その下に「先」に関わる理由が続きます。

若手正社員が転職しようと思う理由(複数回答・令和5年)

賃金の条件
59.9%
59.9%
労働時間・休日
50.0%
50.0%
自分に合った仕事
41.9%
41.9%
能力が活かせる
33.8%
33.8%
将来性
33.1%
33.1%

出典:厚生労働省「令和5年若年者雇用実態調査」個人調査 表19(転職したいと思っている若年正社員=100)

賃金と休日は、すぐには動かせない会社もあるでしょう。けれど下の3つは、会社が「この先」を見せられるかどうかで、受け取り方が変わる理由です。

一方で、会社の側も見てみます。若手の定着のために対策をしている事業所のうち、「昇格・昇任基準の明確化」に取り組んでいるのは30.5%でした。「職場での意思疎通の向上」の59.7%の、およそ半分です。

キャリアパスとは、社内で仕事と役割がどう段階的に変わっていくかの道筋のことです。言い換えると、「ここで3年働くと、何ができる人になっているか」を、入社前と入社後に見せる地図です。

ここまでで覚えてほしい1行。相談が来ないのは、満足の印とは限りません。聞く場所と、見せる地図がないだけかもしれません。

キャリアパスは、等級制度より先に「1枚の道筋」から作れます

ゼロから作る必要はありません。厚生労働省は「職業能力評価基準」を56業種で公開しています。仕事に必要な知識・技能と、成果につながる行動の例を、段階ごとに整理したものです。

あわせて、業種内での道筋を示す「キャリアマップ」と、チェック形式の「職業能力評価シート」も出しています。こちらが用意されているのは、このうち16業種です。ない業種は、評価基準の本体か、業種に共通する事務系職種の基準を使います。どれも、自社に合わせて手を加えて使う前提の無料の素材です。

1枚のキャリアパスを作る3つの手順

手順やること目安
① 段を分ける今いる社員の仕事を、入社1年目・3年目・5年目以降のように3〜4段に分ける役職名ではなく「任せている仕事」で分ける
② 段ごとに書く各段で「1人でできること」を、評価シート(ない業種は評価基準)の項目から借りて3〜5行で書く今いる社員の実際の仕事と照らす
③ つなぎを書く段が上がると、手当・賃金・任せる範囲のどこが変わるかを、書ける範囲だけ書く約束できないことは書かない

出典:厚生労働省「職業能力評価基準について」「キャリアマップ、職業能力評価シートを活用した企業の取り組み事例について」をもとにDIALOG作成

作業療法では、目標を本人と一緒に決め、届く大きさに区切って共有するのが基本です。遠い目標だけを渡しても、今日の練習とつながらないからです。

23年現場にいた人間として言わせてもらうと、若手の「先が見えない」も、これに近いように感じています。社長の頭の中には道筋があっても、本人の手元に区切られた形で届いていないのです。

使う場所は、面接と入社2年目の面談の2か所です

作った1枚は、使う場所を2か所に絞ります。

1か所目は面接です。「将来性のある会社にかわりたい」若手は、次の会社も同じ目で見ていると考えています。面接の最後に1枚を見せ、「3年後にはここまで任せたい」と1分で話せば、内定承諾の前に材料が1つ増えます。

見せるのは、細かい評価項目ではありません。段の名前と、各段で任せる仕事の例が2〜3行あれば足ります。求人票の「仕事内容」の欄に、1年目と3年目の仕事を1行ずつ書き分けておくと、面接での話とそろいます。

2か所目は、入社2年目の面談です。相談のしくみがある事業所でも、実施時期で最も多いのは「定期的に実施する」55.2%でした。待つのではなく、時期を決めて会社から聞く形です。

ここからは仮定です。入社2年目の若手が、「自分に合った仕事か」で迷い始めたとします。1枚がない会社では、その迷いは誰にも聞かれません。本人の中だけで、「この会社に自分に合う仕事はない」という結論に変わっていきます。会社が知るのは、退職を申し出られた日です。

1枚がある会社では、面談でそれを一緒に見て、今いる段と次の段の差を確かめる。合わないのが仕事の段なのか、職種そのものなのかが、辞める前に話題にできます。

評価の伝え方は人事評価、資格取得を段に組み込む方法は資格取得支援制度、辞めた理由の聞き方は退職面談の記事で扱いました。

先が見えることは、給料と同じ紙の上に載せられます

賃金は、すぐには上げられないかもしれません。けれど「ここで3年働くと、何ができる人になるか」は、今日から紙に書けます。

もし1つだけ持ち帰るなら

入社3年目の社員に、2年前の自分と比べて「今できるようになった仕事」を3つ挙げてもらってください。それが、1枚目のキャリアパスの2段目になります。

よくある質問

役職のポストが少ない小さな会社でも、キャリアパスは作れますか?

作れます。役職の数ではなく、「できる仕事の段」で道筋を書けば、ポストが少なくても先が見えます。

相談を受けるには、キャリアコンサルタントの資格が必要ですか?

必須ではありません。相談のしくみがある事業所でも、相談を受けているのがキャリアコンサルタントである割合は11.7%でした。

国のキャリアマップは、そのまま使ってよいのですか?

厚生労働省は、自社に合わせて手を加えて使うことを前提に公開しています。業種が合わない場合は、近い業種や共通の事務系職種の基準を借ります。

最後に — 人材課題を抱える中小企業の経営者様へ

若手が黙っているのは、話すことがないからとは限りません。話す場所と、話すための地図がないだけかもしれません。国の無料ツールを借りた1枚の道筋と、面接・入社2年目の面談という2つの場所。そこから、「この会社で先が見える」と思える理由を、一緒に設計してみませんか。

著者プロフィール

三宮 孝太(株式会社DIALOG代表取締役 / 作業療法士)。作業療法士として23年、急性期医療の現場で「人が働き続けられる条件」を見続けてきました。その臨床知見をもとに、現在は中小企業の採用・定着、健康経営、介護予防の支援に取り組んでいます。

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人が採れない、入社しても辞めてしまう会社へ。DIALOGは、人が採れない・辞めてしまう課題を抱える中小企業の採用・定着を支援しています。手段としてご提案しているのが、健康経営優良法人の取得支援です(建設業向けには「ぱとす」による伴走支援も行っています)。ご相談では、求人票や面接で見せる材料、入社後の面談の組み立てを、本記事のような視点も踏まえて一緒に確認します。作業療法士23年の臨床知見をもとに、貴社の業種・現状に合わせて一貫して伴走します。

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参考データ

本記事は、著者(作業療法士歴23年・急性期医療従事)の臨床知見と、公的機関の公開資料を踏まえた解説です。相談のしくみの割合は令和7年度能力開発基本調査(常用労働者30人以上の企業・事業所が対象)の結果で、30人未満の企業の数字ではありません。若手正社員の転職希望と理由は令和5年若年者雇用実態調査の結果で、「若年」は15〜34歳を指します。横棒グラフの棒の長さは割合をそのまま表しています。表「1枚のキャリアパスを作る3つの手順」はDIALOGによる整理です。「相談が来ないことと辞める気がないことは別」「先が見えないことが作業療法の目標設定に近い」「将来性を求める若手は次の会社も同じ目で見る」は筆者の見立て・所感であり、調査が示したものではありません。入社2年目の若手が迷い始め、退職の申し出に至る経過は、説明のための仮定であり、実在の事例ではありません。臨床現場に関する記述は、著者の所感を述べたもので、特定の個人を指すものではありません。人事制度・賃金制度の設計や就業規則の変更など個別の判断は、社会保険労務士等の専門家にご確認ください。本記事は、採用の成果や離職率の改善を保証するものではありません。